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2010年7月26日 (月)

人間とは何か A・カレル 『人間この未知なるもの』

 『人間この未知なるもの』は、フランスからアメリカにわたり、ノーベル生理学賞を受賞した著名な生理学者である、アレキシス・カレルによって1935年に書かれました。この本は発売されてから各国で爆発的に売られ、日本でも3年後の1938年に桜沢如一によって訳され岩波書店から出版されました。その後、渡辺昇一の訳で最近では2007年にも三笠書房から再版され、その間全部でいろいろな出版社から12冊も出版されるほどの人気を持った書物です。この「人間この~なるもの」という言葉は、次々にそれぞれの人なりの「人間この~なるもの」が出版されました。現在サブタイトルも含めると、53冊も出ているのを見てもその人気がわかると思います。

 私は1952年に角川文庫からだされたものを、学生時代に読みました。学生時代から人間学研究会を立ち上げ、独自の人間学確立を目指していた私にとっては大きな刺激になりました。カレルはそれぞれの学者が専門化し「人間とは何か」ということが、わからないままにいろいろなことが行われていると指摘します。そこで自己犠牲をいとわない人が、25年間、自己犠牲をする修道士のように世俗的なことに一切かかわらずわき目もふらず、人間に関するすべての書物や資料を学び、その結果、「人間とはなにか」を見きわめることが大切であり、そのようないわば超人が人類を指導すべきである、と言っていました。私もまだ20才そこそこでしたが、人間に関して全分野を学び、人間に関してのすべての知識を身に付けたゼネラリストになろうと思いました。しかし、カレルはそのためには何々をしてはいけないということがいろいろあって、私はその、してはいけないことをいろいろやってきたために到底、カレルのいう、人類を指導するものなどにはなれませんでした。学者ではなく会社の経営者になるなどは論外でしょう。そしてもうすでに25年はおろか47年も過ぎましたが残念ながら全然ものになってはいません。ただ、特に専門を持たず人間全体をとらえていこうという基本的態度を持ち続けてきた大きな原動力にはなっています。

 A・カレルは第一次世界大戦と第二次世界大戦の間で、ナチスがヨーロッパを席巻するし、ロシアでは社会主義革命がおこり、亡命先のアメリカでもさまざまな社会の矛盾を感じるという状況の中で、近代文明と人間の崩壊の危機を訴えました。しかし彼は原子爆弾の存在や恐るべき環境破壊を知らずに死にました。現在は人類の危機はもっと深刻化していると言えないでしょうか。カレルは、この危機が人間に関する科学が遅れていることと、極端に細分化されていることにあるといいます。重要な「人間に関すること」が人間のことがよくわからない人々にゆだねられている。そこで、「総合的な人間科学」を樹立し人間に関しての一覧表を作らなければならないと言うのです。しかし前に述べたような世間とかかわりを持たない人物のつくった学問などはひどくゆがんだものになってしまうことでしょう。 一方私は世間とのかかわりを重視しつつ、総合的な人間学を作りあげなければならないし、人間についての総合的な知識を身に付けたゼネラリストを養成しなければいけないのではないかという、考え方のもとにはなっています。

 カレルは、さまざまな奇跡を起こす「ルルドの泉」の巡礼団の付そい医師として、ルルドの泉に行き、そこで、劇的な病気の回復をする人々を目の当たりにします。カレルは『ルルドへの旅』という本にその経験を書いています。このような内容は、キリスト教信者にとってはとても受け入れやすいものの考え方です。ノーベル賞を受賞するような学者がいっていることだと。そして彼の話にはキリスト教にもとずく神秘主義に満ちています。また、彼は、遺伝子的に劣った人々は断種させて、人類を優れた遺伝子を持った人々を多くするべきだとか主張しています。これはナチスの考え方と同じです。またさまざまな形のエリート主義があります。そこのところが保守的な論客である、渡辺昇一氏などが何度も訳書を出しているもとにもなっています。

 ともかくいろいろな問題には満ちてはいますが、「人間とは何か」について考えてみようとする人は一度は読んでおいたほうがいいと思います。次のブログには、「人間この~なるもの」という本と言葉がいかに多いか示してみます。

 

 

 

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