経営人間学(11) 人間のための企業
軍太鼓の太鼓に合わせて、真っ赤なきれいな軍服を来たイギリス軍が、撃たれても撃たれて倒れてもそれを踏み越えて、整然と行進していきます。それに対して、軍服はまちまちで、散兵となって射撃するアメリカ軍。アメリカ独立戦争の映画の1シーンです。(2000年の『パトリオット』です。メルギブソンが主役のベンジャミンを演じます。ゲリラ戦で戦います)ばらばらに散兵になっていたほうが弾丸があたりにくいのに、どうしてなのだろうかと思ったものです。イギリスでは身分制度がはげしく、将校になるものは上流階級で、一般の兵士は下層階級です。昔の軍隊は将校は比較的優秀でも、一般兵士はそういう形で統制を取らないとばらばらになってしまうのです。昔の戦争では洋の東西を問わず、総大将が死んでしまうと大軍が一気に崩壊してしまう例はたくさんあります。独立戦争でのイギリス軍もそうでした。優れた指導者がいてその下でありのようにいいなりになってうごく形は、指導者が健全で物事がうまくいっているときにのみ力を発揮します。
しかし、兵士一人ひとりが戦う目的の意識と、自分の役割をつかんで戦っている軍隊は強いのです。ゲリラ戦はそういう兵士でないとできません。それぞれが、それぞれの自律的な意思で状況判断を正しく行い対処できるときは、状況(戦況)の激しい変化があろうとも大きな過ちは起きません。ベトナム兵はゲリラ兵となって圧倒的な兵器の量に勝るアメリカ軍を打ち負かしてしまいました。
アメリカ独立軍は職業軍人だけでなくいろいろな一般人が参加しました。イギリス軍の鉄砲より優れた、アメリカ軍の猟師や一般人の持つライフル銃を持っていました。散兵として、自由に戦えるアメリカ軍は森に誘い込みイギリス兵をうち取りました。このことはエンゲルスが書いた百科事典(ニュー・アメリカン・サイクロペディア ーマル・エン全集14)での軍隊における項目で、大きな戦法のへんかとして述べられています。逆にナポレオンは、自律的に判断できぬ将軍のためにワーテルローで負けてしまいました。
企業においても、優れた社長なり、経営陣がいても何事もその指示まちで、いいなりとなって、将棋の駒のようにはたらいている社員がほとんどという会社は状況の変化がなく指導部が健在の間はうまく機能します。しかし現代のように予想できぬ事態が次々に起きてくるような激変の時代にはうまく対応できなくなります。
一時”人間のための企業”ということが言われた時代があります。世界中が好景気に沸き、人手不足の時代には、社員が大切、人間が大切といわれました。しかし世界中で不景気が続くようになると、社員が大切などといわなくなります。昔コンサルタントの船井幸雄が盛んに、「人間学」の本を書き、経営者の個人的な指導力と社員の重要性を説いていました。ところが不景気の中で途中から経営はアメリカ型のコンピューターを駆使したドライな経営が中心となってきました。船井総研でもそういう本が中心となってきました。人情的経営を廃したアメリカ流新自由主義にもとずいた経営学が席巻しました。東京ガスでも、下請けの店と、車の両輪といっていた温情主義的な経営は消え、アメリカ帰りのエリート層などが経営の中心を占め、ドライに下請けの店の手数料をどんどん減らし、店の数を減らしていきました。
マズローが『人間性の心理学』を書き、人間の欲求の中で”自己実現の欲求”が最も高度な欲求であることを示し、それをドラッカーが『企業の人間的側面』を書いて、それを経営学に応用しました。また『マネジメント』(ダイヤモンド社、上田淳生訳)では「人こそ最大の資産といっています。これらは経営学では必ず学ばなければならないもので、最近経営だけでなくいろいろな所にその考え方が活用されてきています。しかしとかく計画を達成すること、目標に到達することが自己実現の欲求を満たすことであるなどと矮小化される傾向があります。
わざわざ、”人間のための企業”などといわれるのは従来の企業がそうでなかったからです。人間は“人手”であり、使い捨てても構わないもの、会社の利益のためには、社会的に問題を起こしても構わないなどという考え方が主流になっています。新自由主義似もとづく小泉行革で、派遣業務などの幅を広げ、多くの社員が正社員から、パート、派遣社員に変わり、所得格差が広がり、貧困層が増大しさまざまな問題が生じています。所得300万以下の人が増えそのような人は中々結婚できず、結果として少子化が進んでいます。
今そういう中で、社員の待遇を良くし、個人の提案を積極的に取り入れ、生き生きした会社が見直されています。私が社長としていた会社も、同業他社よりも給与や待遇が良く、各人の創意工夫も取り入れ、自主的な取り組みを重視してきました。給与水準も高かったため、会社としてはあまりもうかりませんでしたが、いろいろなインセンティブをつけたりして社員の積極性が売り上げなどを押し上げ、下請け百数十社の中で常に1,2を争う上位の成績を収めていました。社員はそれを誇りにも思っていました。社員の売る気は、本当に気持ち一つなのです。
しかし2009年9月の合併により、うちの高めの給与は抑えられ、お役所的な労務管理、融通の利かない営業方法などで、営業成績は極端に落ち込み、創意工夫を発揮できないために、結局合併以後利益がなく、持ち株会社になった当社にも何も配当がない状態が続いています。
追記:2012年1月配当なしは続いています。今年度はどうなのでしょうか。
社員を大切にし、社員の創意工夫がいかされ、命令でなくて自主的にはたらく社員の会社が結局、いかなる状況の中でも生き抜きます。自分が会社の中で満足している社員は何よりも人に言われなくてもお客様を大切にします。
私たちは小さい頃、いろいろな夢を持っていました。人間としての本当の喜びは、それぞれの個人の持っている可能性が全面的に発揮されることです。また全面的に発達した個人こそが、優れた社会職場を実現することができると思います。中なか現実には難しいのですが、企業は個人の能力を高め、人間的に成長させる社会的責任があるのではないでしょうか。そしてそういう自覚し成長した社員、一人一人の創造力によって厳しい状況を乗り越えることができるのではないでしょうか。
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