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2011年5月 4日 (水)

養老孟司氏の「さかさま人間学」 社会的観点の不十分さ(280)

2011年5月3日づけの毎日新聞に養老先生の「さかさま人間学」のコラムがありました。毎日新聞に定期的に載せられているものです。養老氏はみなさんご存知のように、解剖学者からさまざまな分野についての評論や出版をし、その時々に人間学の名称を使っておられます。養老氏ははるかむかし、私の結婚の祝う会に私の家内の同級生の夫として、参加してもらったことがあります。養老氏の解剖学さらには医学、生物学から、社会的な物事を見ていく立場が新鮮で、また人間学という言葉をしばしば使ってきたということもあって、養老氏の本のほとんどは、買いそろえ人間学研究所においてあります。また『バカの壁』などがベストセラーになり、いろいろな『~の壁』という本が出されマスコミにもしばしば登場してきています。私も直接養老氏の講演を二回ほど聞いています。

ところが、医学者という面では科学的ではあっても、こと社会や歴史に関しては首をかしげる話が多いのです。その例として毎日新聞の「さかさま人間学」を見てみましょう。表題は「経済成長とエネルギー消費 本当に人間がすべきこと」というものです。最初にどのようなことが書いてあるか紹介します。

 石油が無いと車が動きません。それだけじゃありません。発電の半分以上は火力発電で石油などの化石燃料を燃やしています。昭和16年(1941年)アメリカ、イギリス中国、オランダ一致して日本への石油の輸出を禁止しました。これで軍部が最後の暴走をはじめたと私は思っています。当時一番石油が必要だったのは軍部だったからです。今では石油が切れると普通の人も困りますだから、ふつうの人もいわば当時の軍部になりました。                            そういういきさつがあって日本は原子力発電所を作ったのだと思います。化石燃料に頼ると、買えない事情が生じると困ってしまいます。それは戦争でこりたわけです。

 また経済成長はエネルギーの消費と平行します。エネルギーをできるだけ使わないと社会が今のままなら景気が悪くなります。そうなると多くの人が困ってしまいます。だから本当の意味の省エネ社会を作るのは簡単ではありません。                                                   

 じゃあどうすればいいのか。考え方を変え、エネルギーを使う仕事は人間がした仕事ではなくてエネルギーがした仕事だ。そう考えて本当に人間がしなければならないことが、なんとなく見えてこないでしょうか。大切なのは、立派な機械ではありません。立派な人なのです。

 そしてそのコラムについているマンガでは養老さんが「立派」というベルトをして、車に乗っている人に勝った、と「はい人の勝ち」と犬のレフェリーが、手を挙げさせています。

 以上、一部要約しましたがほぼ全文を載せました。

 さて皆さんはいかがお考えでしょうか。

1、アメリカなどが日本にたいして、石油を禁輸したのが軍部の暴走が始まったというのですが、これは右翼などがよく言っているセリフです。日本は悪く無い。石油を止めたものが悪いと。でも、日本はその前に、諸国の反対を押し切って、中国への侵略を続けていました。これも右翼は侵略ではないといいます。ですから戦争ではなくて、支那事変であるとその戦争を止めるために、アメリカなど四国が圧力をかけたのです。中国への侵略をやめていれば、石油が禁輸されることはありませんでした。

2、化石燃料を買えなくなると困るから、原子力発電所を作ったということですが。発電所に使う化石燃料は石油だけではありません。石油はかなり中近東に偏り問題があるかも知れませんが、現在の火力発電では石油はわずかで、多くが天然ガスと石炭によっています。原子力発電所は、アメリカの圧力により、中曽根や当時の政財官が一体となって、導入したものです。この原発推進は国策として多くの税金が投入されました。天然ガスは比較的多くの国で産出され、メタンハイグレードなどの開発で日本の周辺でも資源が確保できます。天然ガスによる発電(コンバインドサイクルやコージェネレーション)などにより大変効率の良い発電ができるのです。今止めている火力発電所や水力発電所を完全に復活させれば原発はいらないのです。原発は利権集団のおいしい飯の種だからやっているのです。

3、最後の養老さんの言っていることはよくわかりません。具体的にどうするということは言わないで、人間が本当にするべきことをすればいいという大変抽象的なことばで終わっています。原発はやめるのですかどうなのですか。具体的に省エネはするのですかしないのですか。人間がしなければいけないこととは具体的にどうすればいいのですか。養老氏が「立派」とされてチャンピオンみたいになっているのは大学の先生として本や新聞のコラムを書くことが人間が本当にすべきことなのでしょうか?

 どうなのかよくわかりませんが、これでは書いていても意味が無いのではありませんか。

 結局、原発推進という自民党政府や財界、御用学者、大マスコミなどがやってきたことを非難するわけではなく、何か抽象的なことばでお茶を濁すだけでほとんど意味が無いコラムに思えるのですが、いかがでしょうか。

  

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人間と社会、歴史」カテゴリの記事

コメント

やはり著名学者としての使命感はおありと思います。発信力もありますから。直接的な言葉で伝わらないことを伝えようとしているんではないでしょうか。発信力がない人が伝えようとしても伝わらないし、仮に発信力があっても(内容が正義であっても)、アジるだけでは誰も読みませんから。

「都市主義の限界」によれば、養老先生は田舎主義で、世の中は都市主義です。ですから、田舎主義の養老先生が本音を語ると、都市主義の世の中から叩かれかねない。そこで、養老先生は本音を曖昧にしているんだと思います。
引用文とイラストの説明から考えると、田舎主義の養老先生の結論は「経済成長をやめろ。」ということでしょう。
経済成長・都市化をやめればエネルギー消費は抑えられ、原子力・天然ガスなどの地下資源に頼らない本当の省エネになる。これが養老先生の本音で間違いないと思います。
しかしながら、私など一部の人間しかこれを受け入れないでしょう。

養老氏は有名人ですから、あまり、あからさまに原発反対などと言えないのかもしれませんね。抽象的に。あたりさわりなくということで。

 「バカの壁」を読みました。その上での推測ですが、養老氏は「本当にいいたいこと」をあえて控えているような気がします。おそらく、聞く耳のない人に語りかけても、理解が困難ですから。苦慮しながら、せめて、読者が考えるきっかけを作ろうとしているように見えます。

そうですね、列強がアジア各国を植民地化していました。日本がイギリスやアメリカに勝って、アジアの力に目覚めたということもあったと思います。そしてアジアの独立を速めたことも事実です。戦後日本兵が現地に残って独立戦争を助けたりしていますね。ところが日本は、現地の人のためではなく、日本のエゴのために、かいらい政権を通じて、現地の人々を支配しました。日本の軍隊の横暴さに現地の人ががまんできなくなりました。

石油やウラン(のエネルギー)に頼るのではなく、人力に頼るということでしょうか?(笑)
まあ、それはともかく、確かに「中国大陸への侵攻」は戦略的にも道義的にも誤りと過ちがつきまといますが、「東南アジアの解放(つまり欧米列強の支配を打ち破る)」ということに関しては評価できると思いますよ(あの時点でなにもしないよりは)。

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