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2011年6月 6日 (月)

「人間にとって顔とは何か」ー研究の難しさ その2 (300)

Hi3d0136

顔学会での資料です。日本人と韓国人の好みの顔を合成しました

左側が日本人好みの顔です。

本の内容について感じるところをいくつか述べてみましょう。

一つ目の問題は、

アメリカを中心にした社会心理学では、行動主義的、実証主義的な立場のもとに厳密な理論を作るために様々な要素を除外し、実験室中心の研究が多くなります。たとえば特定の人々(特に大学生)にたいして、正面を向いた表情のない写真を見せて「評定尺度や質問紙」でその反応を測定して統計的にだす、といった研究が多いということです。その結果を集計して、それぞれのテーマにおいて、容貌に関して、顔の美しさが影響力を持つという研究結果が多数出されてくることになります。そして著者らは、それらは正しくないという本の少しの例を引いて(救いとしてこういうものもあるととして)最後の結論とせざるをえない状態なのです。

 そして著者らは日常的な自然の場面、すなわち現実的に意味のある研究を「生態学的に妥当であるか」という表現を使っているが、今後はそういう自然的状況の中での研究が必要であり、今までのような実験室的な研究は卒業すべきだといっている。まったく同感です。しかし我が国においても、このような実験室的な誤った結論を導きやすい研究が中心をなしているのではないでしょうか。

 しかしまた一方においては、先ほどあげた蔵 琢也氏などの社会生物的な見地においてみれば「美人を愛した遺伝子たち」のサブタイトルにかかれているとおり、「いい女を好きなのは僕らのせいじゃない」、「オスのDNAが悪い!」などと社会的側面を欠如した、生物学的法則をそのまま現実社会にあてはめた生物学的決定論(これは竹内久美子氏の著作などにもみられる)も誤った結論を生み出してしまうのです。

 さらには、神秘主義的、観念論的な占星術を基礎とした、顔に関する本も多数出されています。これらはいずれも人間の一側面だけを見て、人間の全体像をとらえない誤った方法論のもとに人間をとらえているのです。実際の人間のあり方には、極めてたくさんの要素が複雑にからんでいるのであり、総合的、科学的、実用的な立場で見ていく必要があるのではないかと思います。私はこれを、実用的人間学的見地と呼びます。このような見方でないと正しく本質が見極められないのではないかと思います。実用的人間学とは何かは改めて論じることにします。

二つ目の問題

言葉の問題です。この書物では「美しい」という言葉よりも「魅力的な」 (attractive)という表現がよく使われています。「美しい」は a Beauty(女性)や Handsome (男、こども)や顔立ちの良さ、good lookinng ということになります。醜いはUglyだが会話では a plain or homely woman というらしい。さて魅力的とは、単に顔の美しさだけではない。さまざまな要素が加味されているはずです。「美人」ではないが「魅力的」であったり、、その逆のケースの人はたくさんいます。また本書にもかかれていますが、魅力的ということ自体がまだ十分に研究されていないということです。ですから魅力的かどうかを顔写真だけで判定するのは最初から無理があるのがおわかりでしょう。

三つ目の問題は、

訳者が指摘していることですが、顔の研究をしていながら肝心の顔写真が絶対にない、というところです。これは研究の蓄積にとっては致命的です。不美人や魅力のない顔の典型としての顔写真なんて、とっておけないに決まっています。そのためにも魅力度の客観的評価基準が作りにくく、結局その研究者の好みにまかされてしまうというということです。

 しかし最近の顔学会などでは、コンピューターを駆使して、顔の合成写真をつくり、東大生の顔、政治家の顔、日本人が好む美人の顔、韓国の人が好む美人の顔などが示され始めました。これは大変興味深いことですが、これが「犯罪者の顔」などを作って新しいステレオタイプのもとにならぬように気をつけねばならないでしょう。

四つ目の問題は、

この書物で示された研究における写真では、表情を無くした顔を使っていますが、実は表情こそが人々に魅力的かどうかを決定させる最大の要素なのです。ダーウインは「人間および動物の表情」で、霊長類や諸民族において、たとえば「笑い顔」などにおいて表情が共通なことをもって、人類の進化の例証としています。人間が人間として発達させてきた表情をのぞいた魅力論議は本来成り立たないのではないかと思います。

 その三に続きます

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