私たちの身の周りの変化 独占と集中がすすみ格差が増大 新自由主義(370)
新大久保の街の変化
私たちの身の回りの変化を見てみますと、戦後から66年たって、驚くほどの変化があります。私は昭和18年2月の生まれで、戦前の記憶は全くありません。しかし、戦後66年間の変化は身をもって感じ取ってきました。私は以前にも書きましたが、まず自分の周りの街の変化と仕事の変化を書いてみます。
私の家は100年ほど前に新潟の長岡で桶屋をやっていた曽祖父が新潟から、すでに、先に東京の大久保の地に来ていた祖父を訪ねて来たことから始まります。そして桶屋と井戸掘りの仕事を始めます。祖父は一時東京を離れ、大阪に行き結婚しましたが、曽祖父が病気で倒れたので東京に帰ってきました。関東大震災の時に、下町は壊滅しましたがこのあたりは地盤が固く、家は壊れませんでした。それ以後、下町から引っ越してくる人が多くなり、この大久保百人町の地も人口が急速に増えてきました。井戸掘りの仕事も桶屋の仕事も大忙しだったようです。戦前は、閑静な住宅街で、有名人も多く住む高級住宅街でした。しかし戦争でこのあたりはすべてまる焼けになってしまいました。
戦後は戦争に行っていた父や叔父が帰ってきて、再び、桶屋を再開しました。風呂桶は住み込みの職人さんも多くかなりの量を生産し、販売、卸とをやっていました。町には戦前も商店がびっしり並んでいましたが、戦後もいろいろな商店が軒を並べていました。(詳しくはこういちの人間学ブログ「大正、昭和、平成を生き抜いた父の死」2009,12 をご覧ください)
新大久保の駅前通りから横道まで個人商店の店がたくさんありました。普通の買い物は、近くの店でみんな揃いました。うちは、東京ガスの下請けのサービスセンターとなり、お風呂の製造販売はやめました。その頃には新宿区だけでもそういうサービスセンターが8店もありました。しかし、担当地域のお客様に比例したガス器具の売り上げ目標を達成しない店は、どんどんやめさせられていきました。また、東京ガスの仕事の労務提供の仕事が多く、手数料が上がらないために、採算が合わずやめていく店もありました。新宿区では3社、隣の渋谷区や目黒区では、一社のみがのこるという状態でした。そしてつい行政区ごとに東京ガスの資本が入った合弁会社に組み込まれ、私の会社も単なる持ち株会社になりました。
今は、韓流ブームで借り手があっていいのですが。他の商店街では、郊外の大規模スーパーにより駅前の商店街がシャッター通りになってしまっています。これは規制緩和で、大店舗に有利なように法律を変えたからです。
独占と集中
昔は私の店でも電気製品を売っていたことがあります。電気のエアコンはかなりの台数を売りました。一時は店頭で松下電器の電気製品を売っていたこともあります。ところが途中から、大手の量販店で売っている価格のほうが、じかに仕入れるよりやすくなり、販売は断念しました。
少しでも大量に仕入れたものが、メーカーにたいし仕入れ値を安くさせることができます。町場の電気やさんは、到底太刀打ちできません。お年寄りで、電気のことなどなんでも来てくれるということで、多少とも高くても買うという以外は無理になりました。現在では明治通りからお滝橋通りに至る大久保通りで、電気屋さんというのは一軒もありません。大型店でも新宿ではヨドバシカメラ、ビックカメラ、ヤマダ電機の三店が競争し、中堅どころの量販店などはつぶれてしまいました。
そのほかでも、衣料品はユニクロがその圧倒的な安さで、他の衣料品店を圧倒しています。ドンキホーテや100円ショップなどの安売り店も、ほかの小売店では太刀打ちできません。食べ物もマグドナルドなどの店がどこにもあります。新大久保の通りでも、今までの食料品店は姿を消し、コンビニばかりです。大久保通りでも魚屋さんや、肉やさんもありません。八百屋が二軒ほど、パン屋さんも二軒ほどです。昔はそれぞれのお店でいろいろな商売をしていましたが、私のところを含めほとんどが商売をやめ、貸しビル業になっています。寿司屋さんも普通の寿司屋さんがやめチェーン店の回転寿司になり、それも減って、今は全くちがう韓国系の店になるという状態です。持ち家の商店はかろうじて商売をやっていますが、それも後継者不足などで、やめて行っています。
日本人の経営の商店が激減し、周りの住民は3分の2以上が外国人という状態で、お祭りなどを維持するのが大変になっています。
以前は、商店のおやじさんや、中小企業の経営者は自分の仕事に誇りを持ち、堂々と生きていたと思います。ところが、自民党などが、規制緩和でどんどん大規模店を強化するようになり、商店は一部を除き、採算が合わずみんなやめていってしまいます。その結果、労働者になるか、年金だけで生きていくようになります。
現在はどの業界でも、一部富裕層の豪華品か、極めて安い商品に売り上げが二極化して、その中間はへりつつあります。昔は、靴やさんや、洋服屋さんなどが近くにあって、自分にあった靴や洋服を作ってもらったものです。今はそんなことをしたらとんでもなく高いものにつきます。今円高で、中国製品を中心として輸入品がとても安く出回っています。それで日本の地場産業はどんどんつぶれていきます。身の回りの品がどんどん下がるデフレのために、大企業はどんどん労働者の賃金や下請けの労賃を下げ続けています。そのため国内の需要は高まらずずっとデフレ・不景気は続きます。その一方で、大企業は社内留保をどんどん増やし続けています。円高で、海外の会社を買収したり、海外に進出している企業も大変増えています。
参考 : 韓国は日本よりもさらに独占と集中が進んでいます。韓国の輸出は現代自動車、LGなど4代財閥が全体の70%を占めています。日本では非正規社員が30%なのに対して60%で、定年も早く、失業率が増大し、いろいろな問題点が生じているとのことです。『超格差社会・韓国』九鬼太郎
新自由主義と、グローバリズム
このような事態を引き起こしているのは、1980年ころに始まった、アメリカ大統領のレーガンやイギリスのサッチャーが始めた新自由主義に基づく経済政策によるものです。新自由主義とグローバリズムについては改めて詳しく書きますが、新自由主義は1930年代にケインズ学派の経済政策を批判した、ミルトン・フリードマンやハイエクらのシカゴ大の学派の提唱する政策で、市場競争の原理を進め、多くの政府の部門を民営化し、政府を縮小しようとする政策です。そして、金融市場が、企業経営の絶対的な支配を行い、企業は株価の上昇と、株主に最大の利益を生み出すことだけに集中しようとするものです。政府の社会的福祉の側面は見失われ、労働者は使い捨ての材料となるものです。
そこに世界のグローバル化という側面が加わります。グローバル化とは、多国籍企業が地球規模で、経済活動を行い、自由貿易、市場経済至上主義を全地球に拡大しようとするものです。1991年にソ連が崩壊して以後、アメリカの多国籍企業を中心に、各国の政府に干渉し、市場の寡占化、独占、固定化を狙うものです。多国籍企業はアメリカの政府を後ろ盾に、それぞれの国の政策に干渉し、有利な方向にもって行こうとします。
今では、少数の多国籍企業と、金融マネーを操ってファンドなどで巨額な利益を得ている少数が世界の富の多くを所有するようになってきています。この新自由主義と、グローバル化で、世界を支配し利益をむさぼろうとしています。そしてその利益を政府に働きかけ低い所得税とさせ、あるいはタックス・ヘイブンを利用して脱税をしています。
この事態に、アメリカの富裕層の中では「私たちの税金を上げて」と年収100万ドル以上の富裕層が自分たちに増税するように運動を始めました。ブッシュ前大統領時代に、富裕層の減税を行ったためです。富裕層の税率が、他のものより、税率が低くなっているのです。日本でも、証券優遇税制による、証券取引などで得た利益にわずか10%しか課税していません。30%の国も多い中で、もともと20%の税率を10%に下げ、1億円儲けようが税金は10%でいいのです。こういうものを戻さないで、消費税を上げようなどというのは、野田内閣の性質をよくあらわしています。
日本では、中曽根康弘が三公社の民営化を行い、小泉純一郎と竹中平蔵は道路公団や郵政民営化を行いました。その中で、派遣労働者の範囲を大幅に広げるなど、所得格差を大きくするもとになる政策を行いました。そして、続く自民党内閣でもそれを推し進めていました。
庶民の暮らしがますます苦しくなり、その政策の矛盾にようやくきづいた人々の不満が、民主党政権の実現をもたらしましたが、経団連などの財界、官界、大マスコミなどが総反撃し、結局見事に成功し、自民党と政策的にほとんど変わらない野田内閣を実現しました。野田内閣は早速、消費税増税と、法人税減税、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加を表明しました。これはアメリカ政府と多国籍企業などの新自由主義、グローバリゼーションにもとづいた政策そのものから由来するものです。
野田総理は二枚舌でまだ決めたわけではないなどといっていますが、実はもうアメリカに明快な承諾の返事をしているのです。しかしそのような事はみんなお見通しで、その結果支持率はどんどん下がりつつあります。
大マスコミの影響力は極めて大きく、今の政府に有利なことを報道し、不利なことを報道しません。みな報道に惑わされ、小泉元首相がいかに庶民の暮らしを悪くした元を作ったかなどを思わず、小泉さんは良かったなどとおもわせています。これらの、一般庶民の気持ちと実際の政治の大きなかい離をもたらしたのは小選挙区制です。民主党、自民党は、さらに少ない票でも大きな議席がとれる選挙制度に変えようとしています。
しかし世界をみれば、アメリカのニューヨークでのデモや、南米でのアメリカの大企業と一線を引いた政府が続々と誕生していること、EUでもアメリカの思うようには行かなくなっているなどがおきています。日本でも、今の政治がどのような仕組みで行われているのか、いかに庶民の暮らしを、圧迫し、大企業やアメリカが好むように、そしていいなりになっているのかを知っていただきたいとおもいます。
★TPPなどの詳しいことは改めて書きます。
参考書など
『グローバリぜーション・新自由主義批判事典』
イグナシオ・ラモネ他 2008年8月 2800円 作品社
らばQ 「どうして反格差デモや暴動が起きているのか?」
http://labaq.com/archives/51710178..html
ここでは所得格差の実態など様々な資料が図示されています。ぜひご覧ください。
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