河合隼雄氏の『こころの処方箋』に学ぶ 1更新版 悩んだ時のバイブル
このブログは2010年6月24日に書いたものです。臨床心理学については、このころは盛んにブログに書いていたのですが、最近(2013,5)は、あまり書いていません。以前に書いたものに若干手を加え、最近のブログに変更いたしました。
河合隼雄氏と『心の処方箋』について
河合隼雄は1928年に兵庫県で生まれ、父は歯科医院を開業し、なんと7人の男兄弟の五男です。兄の一人の河合雅雄は著名な霊長類学者です。河合隼雄は京都大学の数学科を出て、はじめ高校の数学の先生をしていましたが、子どもたちの悩みの相談を受けるうちに、心の問題に真剣に取り組む必要を感じ、京都大学の臨床心理学の大学院に行くことにしました。その後天理大学の教授になり、1962年から3年間スイスのユング研究所に留学し、日本で初めてユング派精神分析家の資格をとりました。日本に戻り京都大学で、教育心理学科臨床心理学教室を作りました。
1985年には日本心理臨床学会を設立し理事長になりました(心理学ではそのほかにいろいろな学会があります)。その後、「臨床心理士」の資格を確立するのに努力しました。1987年には箱庭療法を日本に紹介しました。1992年に京都大学を退官し1995年に国際日本文化センター所長に、2000年には紫綬褒章さらには文化功労者になりました。2002年1月には文化庁長官、4月には「心のノート」という道徳の副教科書の編集を行いました。6月には文化庁の管轄である高松塚古墳問題で謝罪をし、給与を一部返納しました。8月には脳梗塞の発作によって倒れ、その後、一度も意識を回復しないまま2007年に79歳で死去しました。高松塚古墳問題での心労が命を縮めてしまいました。残念なことです。
河合氏はユングの心理学の第一人者であるとともに、極めて多面的な分野に興味を示し、フルートの演奏会も行いました。臨床心理士の制度や、スクールカウンセラーの制度の確立に努力しました。冗談好きで、日本うそつきクラブ会長を自認していました。日本人の精神構造や物語の世界についても鋭い分析を行っています。また多くの臨床を経験しています。また講演会はユーモアに満ちて面白いと大変評判でした。著書73冊、共著34冊、洋書9冊を出版しています。私も、直接の講演は聞いていませんが、テレビでの話は何回も聞いています。大変面白くまた、ためになるという話でした。
その後「河合隼雄講話集」という、ユーキャンの発行する全7巻のDVDを購入してしまいました。それは河合隼雄氏の講演を録音したものです。本に書かれたものだけでなく、講演での、みんなの興味を引き付ける話しぶりなどは直接の話を聞かないとわかりません。そこには『こころの扉』という副読本があります。いずれ改めていいものを紹介していきます。
河合氏の様々にある書物の中で、「『心の処方箋』ーたましいに語りかけるエッセイ55編」は1992年1月に新潮社より単行本として出版されました。ちょうど京都大学を退官した年になります。この本は「心の処方箋」という題で『新刊ニュース』に1988年から1991年まで連載したものに10章ほどを加えたものです。連載当時から大変評判がよかったものです。河合氏はあとがきで、皆が腹のそこで思っている常識を書いたと言っています。今日本で常識が教えられることが少なくなってしまった。そこで知識を持っていながら常識を持っていない人が増えてしまった、と言っています。タイトルは、非常識のように書いているが読んでいるとなるほどと思うように書いてきたといいます。たしかに本を読んでみると、それぞれがいひょうをつく題なのですが読んでいくとなるほどと納得するものです、
あとがきにはさらに、冒頭に掲げた「人の心などわかるはずがない」、そんなのは当たり前のことである。しかし本屋に行くとあたかも人の心がわかるように書いた本がたくさんあるのに驚くだろうと。河合氏は新しく相談に来られた人に会う前に「人の心などわかるはずがない」ということを心の中で呪文のように唱えることにしている。それによって、カウンセラーが他人の心がすぐ分かったような気になってしまって、よく犯す失敗から逃れることができるのであると、言っています。
河合氏は、最後に、「ふたつよいことさてないものよ」という呪文が好きで、よく唱えている、と言っています。この呪文を唱えると納得がいったり楽しくなったりするのである。格言とか箴言とかいうものではないが読者が「呪文」として愛好してくださる言葉をこの中から一つでも見出していただけると、まことに幸いと思っていると、むすんでいます。
ブログ筆者のこういちは1992年にこの本を読んでから、「ぜひ読んでみるといいですよ」と多くの人に勧めてきました。河合隼雄氏の本は他に私もたくさん持っていますが、やはりこの本が素晴らしいと思います。この本が大変なベストセラーになり、又今日でも読み続けられるには理由があります。私は、何回か人間学の研究会の例会で話してきました。2008年には二回に分けて実用的人間学研究会の例会でお話しました。1992年の6月には新潮文庫としてだされて、買いやすくなりました。まだお読みになっていない方は、ぜひお読みになってください。
55編の話は一編が4ページで終わります。ですから大変読みやすいのです。途中から気になったところを読んでいってもいいのです。参考までにこのブログで、私がこれはぜひ知っておいた方がよいと思うことをいくつか書いていくことにします。
『こころの処方箋』
上記の写真の本は1992年1月25日に、新潮社から出版された単行本です。消費税込で1100円でした(現在も単行本は出版されていて価格は1470円です)。その後新潮文庫に入ったのが1998年6月1日でした。価格は消費税込で現在452円です。文庫版の帯には「うそは常備薬 真実は毒薬」と書かれています。この本の紹介として以下のように書かれています。まだお読みになったことのない方はぜひ購入されることをお勧めします。
「耐えるだけが精神力ではない。心の支えは、時にはたましいの重荷になる。-あなたが世の中の理不尽にこぶしを振りあげたくなった時、本書に綴られた55章が、真剣に悩むこころの声の微(ひそ)かな震えを聞きとり、トラブルに立ち向かう秘策を与えてくれるだろう。この短い一章、一章に込められた偉大な「常識」の力がかならず助けになってくれるだろう。」
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