部落差別の根源、穢多と非人とは「江戸の貧民」から,追加「江戸の賤民」他
『江戸の貧民』という本は塩見鮮一郎氏が『中世の貧民』,『貧民の帝都』に続いて書かれた、「貧民シリーズ」の第3弾となる、文春新書の本です。2014年8月20日に発行され価格は800円+税となっています。
帯封に「身分外」に生きた実力者たち
弾左衛門、車善七、乞胸(ごうむね)虚無僧、香具師・・・
彼らの足跡を求めて、上野、浅草、吉原をあるく。著者は学者ではなく、小説家なので、大変わかりやすく面白く書いています。
まず、この本の50ページに穢多(えた)とか、非人といった人たちについて、大事な考え方が書いてあります。
穢(けがれ)と清めについて、ここで触れたのは、今なお部落を血筋のように思っている人がいるからだ.ながいこと解放運動をやっている人でもそういうことを言う。女性や黒人への差別は身体そのものをしるしとしているのだが、部落差別はそうではない。穢れという日本の社会の底を地下水のように流れている意識でもって蔑視が形成された。
天皇でもだれでも穢れる。だから、御所に穢れが侵入することを、あれ程におそれたのである。また逆に、誰でも一定期間、喪に服していれば清浄にもどる。「賤民」とされた人たちは「穢れの空間」に閉じ込められているから差別されているので、肉体や遺伝子に何かが書きこまれているわけではない。かって部落の空間が「穢」とみなされたのは、そこで牛馬皮革や小動物の死体に日々接しているからで、穢れの時期が継続していると考えてであった。
それが、血統のように錯視されたのは、江戸期の攘夷思想と明治維新後のナショナリズムの悪意が合体した結果である。アジア蔑視の延長線上に部落を置いて、あたかも民族問題のように論じる人がおおくいたからだ。自分たちは「天孫民族」だと威張り、部落民を「異民族」の子孫だとでっち上げた。そんなことを戦前の学者はまじめに論じていたのである。
浅草弾左衛門は穢多(えた)や非人の頭である。江戸幕府は783坪の屋敷を与え、大名並みの待遇を与えた.幕府による弾左衛門への手厚い保護は、武士と穢多身分の親近性を教えてくれる。邪険な扱いをした子に対して、ひそかにわびているふうである。穢多の役の一つは、奉行所にかかわる仕事である。処刑の手伝いや、伝馬町牢屋敷の掃除、浮浪者の取り締まりなどである十手をもって「御用,御用』と賊を追い詰めたりもする。同心などと一緒に犯人を連行する.市中引き回しの時の列に加わる。斬罪や火あぶり、はりつけにも立ち会う。もう一つ大きな仕事に皮革生産の管理があった。
弾左衛門 手代(重役) -平のもの
在方小頭 - 場主 ―平のもの
在方猿飼
猿飼頭(新町在住) -猿飼
非人頭(4人) -小屋頭 -平の者
乞胸頭ー平のもの
参考 弾佐衛門は、長吏頭とも呼ばれた。各地に長吏小頭(在方小頭)をおく
江戸の非人には、抱非人と野非人とがあった。野非人は、「無宿」と呼ばれた。抱非人は、非人小屋頭という、親方に抱えられ、
各地の非人小屋に定住していた。
猿は馬を守るという考え方があり、猿回し(猿飼い)と組み合わせた。
◎穢多はいわば、町奉行や牢屋奉行などによりコントロールされている公務員のようなものである。
非人は社会から、はじき出された、おちこぼれである。
◎銭形平次などの岡っ引きは穢多なのでしょうか?。岡っ引きや目明しでも、いろいろあるのでしょうか。どの資料でも
岡っ引き、目明しは穢多(長吏)か非人がなったようですが。博徒の親分が二足のわらじで、目明しになるようですが。
1645年に浅草山谷周辺に鳥越から,穢多村が引っ越してきた。鎖国が完成したころである。これを新町とよんだ。城下に限りなく近いが、間に川がある。
処刑の実行隊を武士身分から切り離した。自分たちのそとに穢れたものを作り出すことで、武士は穢れてないという詐術を行った。穢多というか非人というか、まだ未分化の身分は、武士階級の誕生に少しおくれて制度化される。紀元1000年あたりでいいのではないか。p、48
皮革は死んだ牛馬から作られたが、海外貿易がさかんであった中世や戦国時代にはアジアから輸入された。三代将軍家光が、オランダなど一部の国以外との貿易を禁じてから異変が生じた。どの藩も皮革は品薄になった。
今まで,死んだ牛馬を手厚く葬っていたのが、これからはすべてを提出させて、無駄なく皮革に精製する。穢意識にとらわれた農民が自分で解体しないなら、穢多身分に依頼する。p、63-64
鎖国の仕上げ後あらゆる農村に穢多村がつくられた。
牛馬の解体とゆたかな部落
穢多が行う牛馬の解体 それによる皮の生産 割の良い仕事で、解体した後は女、(子供みんなして、鍋を囲んだ。)
部落民のほうが栄養がよく、人口が増加している。農民のほうは、生まれたばかりの子の 口に濡れた紙を置いて「間引き」しているというのに。
こういう歴史も、農民に反感を抱かせ憎悪をつのらせる理由になった。(権力の手先となり刑場の役などを行ったのも反感を呼んだ)
車 善吉
非人の頭 浅草が本拠地 一番勢力が強く、子分は天保14年には、4000人もいた。他に非人頭は3人いた。非人のほうは、社会からはじき出された落ちこぼれである。非人のおもな生業は「物乞い」だった。街角の清掃、「門付」などの「清め」にかかわる芸能、警備や刑死者の埋葬、病気になった入牢者や少年囚人の世話などにも従事した。
広義の非人とは、犬神人、墓守、河原もの、放免、乞胸、猿飼、八瀬童子等々の生業からくる総称である。
◎映画のとらさん(香具師)の名前が、車 寅次郎だが関連があるのだろうか。
乞胸(ごうむね)
浪人の中でも特に賤民化したもの 1651年はじめ長嶋礒右衛門が乞胸頭となる 1768年 山本仁太夫が頭となる 12種の色々な芸能をおこなう 身分は町民扱い 仕事中は非人の頭である車善吉の支配を受ける。乞胸は月48文を払えばだれでもなれた。
願人坊主
侍身分から落ちたもの、正式な僧侶になれなかったものが、願人坊主となった。全国を回りながら加持祈祷をし、お札を売り歩く。勧進、勧進という。
すたすた坊主
半裸で一人踊りながら、木魚を鳴らし、手をあげ、足をとんとんと踏んでいる。読経のまねをしてとんでもないお経をあげて居る。真冬になると,縄の鉢巻、腰にしめ縄の裸体で、手に扇をもって踊る。「すたすた坊主」も現れる。
◎五木の子守唄の、「おどま、勧進、勧進」というのは乞食と同じようなものか。
虚無僧
膨大な量に達した浪人対策として、みとめられた。深い笠と尺八を持つ。いつでも仕官して抜け出せるように髪を伸ばしている。
香具師(やし)
縁日などでの、露天商 見せものなど、薬の販売もおこなう。映画のフーテンの寅さんはこの仕事をしている
◎ともかく、江戸時代が終わってからすでに150年近くが経過している。それなのに、いまだに部落問題が存在するのが、おかしいと思いますが、いかがでしょうか。
追加資料 『江戸の賤民』
石井良助 明石書店 旧1988,新、2012,12月 1800円
猿飼 猿飼かしら長太夫・門太夫の支配をうける。エタと非人の中間
◎「江戸の大道芸人」によれば、猿飼は身分はエタではなく江戸城へも上がれる特別な存在。
茶筅(ちゃせん) 中国地方に多い 茶筅を作り販売する。百姓並みだが、一等低い位
夙(しゅく) 大和地区が有名 百姓並み 社会的には下りものと
エタ頭の支配、三味線鼓弓等を引き小唄、小芝居をする
乞 胸 賤民の中でも、一種特別なものでその身分と家業とがはっきり区分され、身分は町方に属し 家業は乞胸頭仁太夫ー車善七の支配をう
ける。町方支配 道路その他で物貰いをする 神社境内などで見世物などもおこなう。 家業をやめれば、賤を脱する。
願人坊主 市中を徘徊して軽口を言い、謎を唱え、他人に代わって祈願の修行などをして米銭などをもらう乞食坊主。
乞胸の鑑札料は仁太夫に払うが老衰者、幼者、手足不自由なものは免除した。
エタ(穢多)と非人
エタと非人では。エタのほうが身分は高い
死牛馬の皮剥ぎは、エタの命で非人が行った。エタは処刑に必要な人数を提供する義務があった。戦時には軍隊となる。
非人は斬髪し、布木綿の他の着用は許されなかった。着物は膝まで
エタは皮細工と灯心販売の特権をもち 田畑を持てる
エタは脇差十手をさせるが、非人はさせない
エタは軍事的用途に、地方の警備は非人(番非人)が行う
賤民解放令 明治4年8月28日
この時の戸籍表によれば全人口3478万余人のうち、エタは45万6000余人(約13%)、非人は8万2000人
他の参考書
「部落史入門」
塩見鮮一郎 河出文庫 2016年1月20日 760円+税
明治維新後、なぜ被差別部落だけが、近代の思想に抗して残ったのかー。被差別部落の誕生から歴史を解明した、的確な入門書は意外に少ない。
「江戸の大道芸人」 都市下層民の世界
中尾健次 ちくま文庫 2016年11月10日 780円+税
芸能と被差別民 非人・乞胸・願人・猿飼・・・知られざる背愛とは?
「日本の聖と賤」毛坊主,時衆、念仏聖、清目、庭師、説教師
野間宏 沖浦和光 2015年12月20日 河出文庫 840円プラス税
« 近況について1、視床出血10か月での現状 2、車いすで本を買いに | トップページ | 「幻解超常ファイル」、ツタンカーメンの呪い、黄金財宝と謎怪死 »
「人間と社会、歴史」カテゴリの記事
- 『週刊東洋経済』9月25日号の「話題の本」に、里見脩氏の本の紹介が載りました。(『言論統制というビジネス』)10月31日NHKラジオでも。(2021.10.31)
- 最近の記事いろいろ、毎日新聞余禄、「日本の敗戦と日本のコロナ対策の失敗の共通性。 文春の衆院選予測 そのほかいろいろ(2021.08.17)
- 関 啓子さんと「関さんの森」に関する本が紹介されました。関さんと人間学研究所のかかわりについて。(2020.04.06)
- 高橋喜代治氏の『耕地の子どもの暮らしと遊び』続編が発行されました。素晴らしい本です。ぜひお読みください。(2019.07.19)
- 「中世の貧民」 説教師と廻国芸人 塩見鮮一郎、貧民シリーズ(2016.12.17)
« 近況について1、視床出血10か月での現状 2、車いすで本を買いに | トップページ | 「幻解超常ファイル」、ツタンカーメンの呪い、黄金財宝と謎怪死 »
コメント