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2015年9月20日 (日)

「ネアンデルタール人の首飾り」岩城正夫氏の解説について

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「ネアンデルタール人の首飾り」”El Collar Del Neandertal”は、スペインのファン・ルイス・アルスアガという、スペイン生まれの世界屈指の古人類学者によって書かれました。氏はマドリード大学古人類学の教授を務めています。原著は1999年に出版され、2008年8月に藤野邦夫氏訳、岩城正夫氏監修により新評論社により、出版されました(定価2800円+税)。
 岩城正夫氏は柴田義松氏、小原秀雄氏そして筆者とともに人間学研究所の創立に関わった方で和光大学の、名誉教授で原始技術論を研究されています。筆者は長い間大変お世話になりました。今は人間学研究所の名誉会員をしていただいています。古代の発火法を研究され、古代発火法検定協会の理事長です。和光大学でのお弟子さんで、古代発火法のチャンピオンである関根氏は人間学研究所の有力会員で、よく例会で実演を交えお話いただきます。
写真解説
 「シマ・デ・ロス・ウエソス」(骨の穴)で発見されたネアンデルタール人の祖先と見られる人類のコレクション。1976年に発見。重要なのは、骨格のすべての部分が発見されていることで、中耳の3つの骨のようなごく小さい骨さえ、驚くべき保存状態で残されている。
プロローグ   -帯封の言葉から
 ネアンデルタール人が本書の中心人物になるのは,かれらがわれわれの祖先だからでなく、まさに祖先でないからである。何十億年前に出現した最初の生物と現代人を結ぶ長い連鎖のひとつを研究してみても、たいして意義はないだろう。
・ 
 それに反してネアンデルタール人は数万年ものあいだヨーロッパで、われわれの種と無関係に進化した類似の人類の代表である。ネアンデルタール人はわれわれが自分の姿を見つめ、その結果、より以上に自分を知るための驚くべき鏡になる。
・第1部 過去の影
・第1章 孤独なある種
‣ 気候の大変動があった。280万年前ごろから、変動は4万1000年ごとにしかおきなくなり、変動の幅がはるかに大きくなった。(氷河期と間氷期)ホモ・ハビリスはまた、森林性の環境に完全に限定されていない最初のヒト科だった。サバンナのような場所だったのだろう。
・第2章  人類のパラドツクス
・ホモ・ ハビリス(180万年以前)が草におおわれたサバンナという開かれた生態系に適応したことは、生息域だけでなくニッチ〔生態学的地位〕の変更も意味した。ハビリスの新皮質の増大。パラントロプスは、脳は目につくほど大きくならなかった。ハビリスは手作りの鋭利な道具のおかげで、肉食者というまったく新しいニッチに到達することができた。
 ホモ・エルガスターという最初の人類(180万年前以後)トゥルカナ湖、身長が伸び、脳も増大。大型の動物もしとめる。
 ・第3章 ネアンデルタール人
 ネアンデルタール人は時代の流れにとりのこされた生きた化石でなく、時代遅れでもなかったのだ。当時の彼らはクロマニヨン人と同じく全く「現代的」だった。脳の大きさはかえってクロマニヨン人より大きい。
第2部氷河時代の生活
第4章にぎやかな森
  イベリア半島 最寒冷期にイベリア半島の年間平均気温が12度から18度も低かった。
 かってイベリア半島の表面積ほぼ大部分は森林におおいつくされていた。
・第5章トナカイがやってくる
極寒の土地から来たマンモス
 トナカイの時代
・第6章 大絶滅
 おばあちゃん仮説について
 最後のマンモス
ウルム氷期の極寒のもっとも乾燥した時代には樹木は皆無だった。
ヨーロッパで人類が生き残るには、動物性たんぱく質と動物性脂肪が常に不可欠だった。
アタプエルカ山地の住人の食物が植物起源だった
第3部歴史の語り手たち
第7章 毒入りの贈り物
 ネアンデルタール人の化石の多くは、事件の多い生活の中で突発した病気や外傷性障害の痕跡をとどめている。〜大きな怪我の後も集団の成員の世話を受けて生きていた。〜広大なテリトリーを放浪したネアンデルタール人のとって洞窟は中継地にすぎない。非常に年老いた個体は洞窟までたどり着けず置き去りにされただろう。洞窟の中に老人の化石が無い理由。
第8章 火の子どもたち
,スペインのアルプエルカ山地の考古学遺跡「シマ・デ・ロス・ウエンス」(骨の穴)で発見されたネアンデルタール人の祖先と見られる古人類の骨のコレクション。4000個以上の化石、28体に及ぶ完全な人骨が発見されている。これほど多くの完全な骨の遺跡は無い。
ネアンデルタール人の骨は非常に広い音階と微妙な言語音の算出を可能にしただろう。p273しかし声道の水平部分はまだ原始的だったので、正確な意味では現代人のように話はできなかっただろう。コンピューターを使って現代の幼児とネアンデルタール人に話をさせた。コンピューターでシミュレートされた声は現代の幼児と成人の声にそっくりだった。しかしi,u,eと二つの子音k,gを算出できなかったらしい。
 ・
 ネアンデルタール人が組織的・計画的にに火を使ったことは間違いない。火の子どもたちであった。
第9章 そして世界は透明になった
 最後の氷河期にネアンデルタール人は3万2000年前までにイベリア半島を除き、多くのテリトリーを失っていた。大昔の強かったヨーロッパ人の血液は一滴も混ざっていない、混ざっていれば誇らしいのだが。p293ある幼児の化石は祖先の中にネアンデルタール人がいたことを示す、いくつかの形質を持っていたという。この地域ではその4000年前か3000年前に絶滅していたのである。
アルシ・シュール・キュールにあるレンヌ洞窟の人骨は、非常に断片的だったがネアンデルタール人と判定された。この遺跡からはまたシャテルペロン文化に属する道具類とともに、穴をあけた溝を彫った歯と骨が発見されている。これらは象牙のビーズやリングや海の生物の化石と同じく首にかける予定だったか個人のアクセサリー用に考えられたものであろう。本書の『ネアンデルタール人の首飾り』という表題は、この驚くべき発見から思いついたものだった。レンヌのネアンデルタール人はネックレスをつけていたのである。p398
◎この点に関していえば、1999年に書かれた「ネアンデルタール人の首飾り」は2009年に明らかになり、2014年に出版された本で、ペーボ氏がアフリカ人以外の人類にネアンデルタール人のDNAが含まれていることを明らかにしたので、混血がなかったとの著者の考えは覆されたことになります。
エピローグ 家畜化された人間
 ネアンデルタール人はヨーロッパで進化したが現代人はアフリカで進化した。3万年前にはわれわれとネアンデルタール人は身体的にも行動的にもそれほど違っていなかった。両種のはっきり異なる進化がおきたのは比較的最近のことであり、その時代に脳の第二次の重要な増大がおきた。以上の現象はヨーロッパとアフリカで別々におきたので、結果は同じではなかったのだ。
 
 現代人の成果は分節言語である。記号を操作し、ストーリーを語り、想像の世界を作りだすわれわれ独特の能力は分節言語にもとづいている。われわれの特殊性は創造力にあり、それはヨーロッパの枝でなくアフリカの枝に出現した。ネアンデルタール人は、われわれのように情報を伝達する革新的なシステムを発展させることができなかった。
 現代人は、ほかの人間から送られる信号にいつも注意をはらう特別な社会的能力を持っており、そのおかげで他人の精神現象を読み取ったり、他人の行為を予想したりできる。ほかの人間の顔を注意深く観察するので、わずかしか感じ取れない印象にも気づいてしまう。
岩城正夫氏の解説
 この本はネアンデルタール人を主題にしながら、実はわれわれ人間の未来について、このままでいいのかという根本的な提起しているように思われる。ごく最近急速な進展を見せた古人類学の研究成果を紹介し、対立する、様々な学説を紹介しつつ、人類の何百万年という長い歴史を経た現在、ついに地球規模での大繁栄に至ったわれわれ人間の存在なるものが、実は相対的なものにすぎないということを、特にネアンデルタール人の絶滅との対比において論じることで、それを読者自身に読み取ってほしいと願いつつ書かれた本と思われる。
 原人たちがユーラシア大陸に渡ってからの過去百数十万年の期間においていくたびもおとずれた氷河期と温暖な間氷期の繰り返しのなかで、イベリア半島の地理的位置と構造は、氷河の南端部がやっと届くかどうかの位置とあいまって、気候風土の多様化を頻繁に現出させ、さまざまな動物や植物、そして人類もが、はげしくイベリア半島に出入り出没し、それぞれの生活の痕跡を残してきたと思われる。-(4章、5章)
 スペインの遺跡には、アルタミラの洞窟画など多くの先史時代の遺跡がある。
ネアンデルタール人は発見当初は、野蛮な人類と思われていたが、研究が進むにつれ決してそうではなく優れた道具を作り、火を作りそれを上手にコントロールし、恐らくは言語も使い、、身体障害者や年寄りをいたわって、一緒に生活し、死者を埋葬する文化人だった。彼らは西ヨーロッパ全域に散らばって居住し、なんと20万年もの長期間にわたって生活を維持していたのだ。
 ところが、4~5万年ほど前、現生人類(ホモ・サピエンス)が、アフリカからヨーロッパにわたってきて各地に散らばって生活をはじめ、もちろんイベリア半島にも4万年前ごろに入りこんできた。そして、ネアンデルタール人と1万年ほどの併存ないし共生期間を経たのち、今から3万年前にネアンデルタール人だけが絶滅してしまった。両者に争いが無かったとは言えないだろう。しかし、1万年もの併存というのは驚くほど長い。より自然な想像は、両者がそれぞれ、自分流議の生活を続けつつ、たまには交流もあったろうし、文化的・知的刺激も与えあったろうということだ。だが絶滅したのはネアンデルタール人の方だけだった。
 著者はそのネアンデルタール人たちの絶滅の過程を詳しく追及した。先史時代遺跡が豊富で、著者自身にとって身近なイベリア半島の地を選び、地理的、気候的、動物学的、植物学的、そして生態学的な各側面から、さらに100万年という歴史的視点をも加えつつ総合的にその問題を検討したのだ。
 その研究過程の中で、ある洞窟遺跡からまとまった数のネアンデルタール人の祖先の骨が出土したが、そのいずれも若い遺体だったことに興味をもった。なぜ若くして死んだのか。これまで、先史時代の人類の普通の寿命は25~26歳だったろうという説があり、それを私も何かの文献で以前読んだことがあるが、本書の著者は、その見方に強い疑問を持ち、その俗説に反論を加え(第7章)、先史時代の人の寿命は特別短かったわけではなく、現代の採集狩猟生活をしている諸民族と同じであり、かなりな年配の人たちもそれなりに共に生活しているはずだったことを論理的に証明してみせた。そのうえで、先にふれたある洞窟になぜ若い死体だけが大量に残されていたのか、その理由を推理してみせた.その部分は圧巻ともいえる。
 優れた文化の担い手だったネアンデルタール人(この本の著者は「首飾り」という言葉によってそのことを象徴的に示した )は、ホモ・サピエンスとの出会い、併存の結果として最終的には絶滅に至ったことを具体例で示したかったのだと思う。
 この本を読んで私は、現代の地球上における人類の驚異的繁栄と、世界各地で絶滅の危機にさらされている人類以外の動物たちの運命を重ね合わせて考えざるを得なかった。
他の動物たちが次々と絶滅していくなか、このままホモ・サピエンスだけが、繁栄を続けることが可能なのか?という問題だ。
 21世紀の現代、世界各地での地域民族紛争が絶えないようで、その解決は可能なのかという重大問題がわれわれに迫ってはいるが、そうしたこととは別の次元において、人類を他の生物たちとの相互関係が根本から問いなおすべきときではないのか?
 またさらに現代において、衣食住の問題は確かに先史時代に比べたら驚くほど進歩しているといえるかもしれない。とくに一部先進諸国といわれるところでは、有り余るほどの物量で満たされてはいる。が同時にそこに生活する人たちのあいだでは精神的ストレスが年々増加しつつある。それはやがて限界に達することにはならないのか?
 ネアンデルタール人に対比するなら、たしかに現生人類であるわれわれは抽象的思考により優れ、豊富な諸芸術になれ親しんでいる。そのより優れた抽象的思考力・想像力は様々な観念世界をも創造し、世界に張りめぐらされた情報伝達の網の目を通して交信し交流し、とくに若者たちの心に重大な影響をあたえつづけている。それはまたわれわれの精神的ストレスを強化・増幅することに大きく加担していると思われる。いま先進諸国の人々のあいだでの精神的な「病」の増加はとどまることを知らないとさえいわれる。そこにおいて人類の真の幸福とはいったい何なのか、再検討せざるをえないときが来ているいるのではなかろうか。
 この本が、われわれ人類の未来を根本的に考えるための参考になればと思う。
訳者あとがき
 アタプエルカ山地の遺跡は、アフリカを出たホモ・エルガスターがヨーロッパや中東でネアンデルタール人に進化するまでの過程を推測できそうな大きな可能性がある。世界最大の最も充実した発掘中の遺跡。
 著者の中心的論点は、ネアンデルタール人が現代人(クロマニヨン人)と無関係に進化したとしても、現代人と同じように明確な意識をもって概念的に思考し、意識的に行動したヒト属だったということにある。
 ネアンデルタール人が現代人より知的・技術的に劣っていなかったが、微妙な一点で違っていたことを示唆して刺激的である。著者の議論は「意識」が人類史のどこまでさかのぼるのかという問題や、現生人類の未来にかかわる問題までも考えさせるであろう。

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