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2016年7月31日 (日)

「第五倫伝」 第1章、再び、赤眉の大軍がせまる (4)

ふたたび赤眉の大軍がせまる
 早朝、賊は旗を立て、今度はいろいろな城攻めの道具をそろえて、本格的に攻め寄せてくるとという知らせをもって、馬が全速力で砦に入ってきた。第五倫は、直ちに砦からの使いの早馬を長安の京兆府へ走らせた。
 こんどの首領は、以前官軍の隊長をつとめていた男であり、赤眉の精鋭部隊である。今度は200人と人数も多く、装備もしっかりしている。およそ3倍の敵であるという。
 小さな砦に赤眉が負けたといううわさがたち、このままでは何とも面子がたたないのである。なんとしても叩き潰さなければならないと。
 第五倫は、今度はきびし長い戦いになる。乏しい食糧だが、この戦いに勝たなければ皆殺しをかくごしなければならないと、食べ物を配り力をつけておくように、女性たちに食べ物を配る指示をした。
 第五倫は、皆を前にして、大きな通る声で、
「みんな、心配することはない。今度の敵は、この前のように力を合わせて戦えば大丈夫だ.もう、京兆府には使いを出した。援軍が来ることになっているから、それまで支えていればよい。がんばろう」
 一斉に、とりで側もときの声をあげた。
 こんどは、砂ぼこりはずっと多い。それは敵の数の多さを示していた。
赤眉は弓矢の届かないところに兵を止め。白旗をもって伝令が来る。
敵の数が多い。今度は油断銭司に、本格的に攻めてくる。
砦の上にいる一族は,おもわず、固いつばを飲み込み自分の得物を強く握りしめた。
数が多い、また今度は油断せず、本格的に攻めてくる。
 今度こそ降伏せよ。しなければこの前のかたきを討って皆殺しにする。
後ろから、精悍なひきしまった顔つきの首領が大声で叫ぶ。
「この前は油断したようだが。降伏しろ。降伏すれば皆殺しにはしない。死ぬのはお前たちの一部だけで済む。
 営保の上に立つ第五倫は、敵の首領以上の大音声で。
「降伏などするものか。数が多くても負けない。女子どもの多いこんな小さな営保にたくさん押し寄せてくるとはご苦労なことだ。前の馬はうまかったぞ。今度も食料用の馬をたくさんくれるのか。お前たちにこの営保は絶対落とせない」
 倫は大声でさんざんに侮辱する。
 怒り心頭に達した賊たちは、隊長の命令一下、攻撃を開始した。
 「よし、皆殺しだ」
一斉に、堀近くまで、攻め寄せる。と、突然前の列が崩れ落ちる。
 落とし穴だ。くずれ立ったところにいっせいに営保から矢を射かける。
「今度は人をねらえ、できるだけひきつけろ。よくねらえ」
 倫は叱咤激励する。
 しかし今度の敵は烏合の衆ではない。直ちに全員を下がらせると、一部は馬を下り一斉に盾をそろえて矢を防ぎ、一斉に矢を放った。火矢を射るものもいる。
 火矢はいくつかの筋を引きながら営保のあちこちに突き刺さった。それを消しに何人もが走らなければならない。
 矢が雨のように降り注ぐ。第五倫はじめ全員が応戦する。倫の強弓と雄の強弩がうなる。倫のまさに矢継ぎ早の速さであった。そして正確に敵を倒していく。まだ14歳の末弟の悌なども弓で応戦する。
 賊は、死人、けが人を収容するために一度退いた。すでに40人近くが死傷している。
 敵は次に車に覆いをかけ、隠れながらやってきた。今度は倫らが火矢をかける。
近づいた敵は長梯子をかけ営保に取りつこうとする。そこへ長柄の戟(げき)で突き伏せる。上から大石を投げ込む。堀に落ちるもの続出である。
 さて、戟とはどのようなものか、漢代には槍以上に使われた。槍の先端にかぎ型の刃がついていて、馬上にいるものを歩兵がひっかけて落とすことにむいていた。
 再び敵は撤退した。
第五倫は味方の被害を調べる。矢にあたったもの十二人、うち重傷者四人、その中に李秀がいた。一人娘の李蘭と第五倫の母親の王麗が介抱していた。矢は胸に深くささり、多くの血が流れていた。
「爺、しっかりしろ」と倫、腕にかかえこむ。李秀は苦しい息の中で、最後の力を振り絞って、第五倫の手をしっかり握りながら。
「わしはもうだめですじゃ。わしは3代の方々に仕えてきましたが、倫さまは世に出て立派な仕事をされると期待しておりました。先がみられず残念じゃ。心残りは孫娘の蘭のこと。わしがいなくなると身寄りがなくなる。なんとか面倒を見てやってくだされ。死に行くものの言葉として聞いてくだされ。蘭は殿を慕っております」
「死ぬな爺、そなたは父親の無いわたしの親代わりであった。わたしも蘭が好きだ。あとのことは心配するな」
 孫娘の蘭は、流れる涙をふくこともなく
「死なないで。蘭を独りにしないで」
と、くりかえし、李秀のからだにとりすがった。
しかしまもなく、とりすがり涙にくれる人々を残して、李秀はがっくりと力が抜け、息を引き取った」
「ああー」
思わず、第五倫は頭を上に向け、大きく嘆息した。
―わたしは正しかったのだろうか。いったいこれから私の責任で何人死なせることになるであろうか。
「母上、私は間違っていたのでしょうか」
「何を気弱なことを、倫や、もし戦わなければもっと多くの人々が苦しむのです。これはどうにも致し方のないことです」
母の王麗はきっぱりといった。
倫の胸は悲しみで張り裂けるようであった。
しかし、いつまでも悲しんでいられない。夕闇が迫り、夜襲に備えなければならない。
誰もが寝ずに夜襲に備えた。母親の王麗が女たちに、てきぱきと指示を与えている。たいまつが赤々と営保を照らしている。
 敵はまた火矢をはなつ。敵はしかし明るさの中に照らし出され、営保に隠れている方が有利であった。次々に第五倫の強弓や強弩の餌食となった。何しろ常人の届かないところに矢や箭が届くのである。風は幸いなことに後ろから吹き、矢の勢いは増した。
 敵はついに夜襲をあきらめ、襲ってこなくなった。
 しかし夜襲は何とか防いだが、また営保側に死者が出、けが人が増えた。みな営保の壁によりかかりながら、一睡もせずに朝を迎えた。
 今日の攻撃は激しいだろうと誰もが考えた。
その疲れは極限に達した。なんといっても数が違う。
 その有様を見て、倫はみんなを前にしてきっぱりという。
「さあ、力を合わせて頑張ろう。われわれは何度も」敵襲を防いできたではないか。大丈夫。今日がんばれば必ず味方の軍が来るぞ」
「そうだ、がんばろう。もう少しのがんばりだ」
と、雄の声。続いていろいろな声が。
「敵も疲れているだろう。もうたくさん死んでいる」
李秀に大変かわいがられていた末弟の悌も、
「李秀じいさんのかたき討ちだ」と大きな声を出した。
「おうー」
「そうだー」と
みなみなは力強く唱和した。
すべてのものが、すすで真っ黒になり、汗と泥や血の付いた服と汚れてひどい顔をしていたが。
 第五倫はその士気の高まりに大いに満足した。
―大丈夫だ。持ちこたえられる。
月明かりの中からしだいに、東から地が赤く染まり、周りが明るくなってきた。朝日がはるか向こうの賊の影を長くうつしだす。
 女、子どもは、残り少ない食べ物を温め、飲み水をみなに配り始めた。食べたものには力がみなぎった。
 

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