安倍首相は28日の冒頭解散の大きな賭け。毎日新聞、松尾貴史、山田孝男氏の記事。今の政治情勢を見る。
2017年9月から10月の政治状況について
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9月26日(火)の新聞各紙トップは「28日解散・首相表明」と書いた。それと同時にわきに、「小池氏希望の党結成」も書いています。安倍首相は森友、加計問題や自民党議員の相次ぐ不祥事などでの追及を逃れ、多少の議席減があったとしても、小池新党は憲法賛成だし、民進党は離党が相次ぎ絶好のチャンスとして解散に踏み切ることにしました。希望の党には、右翼政党のにほんのこころ党首だった中山恭子氏(参議)も参加を表明しました。
28日には所信表明演説もしないで冒頭解散をするらしい。遅くなれば、国会で次々に追及されて不利になるし、小池新党も体制がしっかりしたものになってしまうと思ったのだろう。
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この選挙について、参考になる記事が毎日新聞に2つありました。一つは、9月24日号の「松尾貴史のちょっと違和感」と9月25日の特別編集委員の山田孝男氏の「風知草」です。
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「松尾貴史のちょっと違和感」一部略
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安倍首相が解散の「ご意向」命名「わが逃走解散」に一票
下村元文科相や甘利経産相の説明弁解がいつ聞けるものかと心待ちにしていたら「衆議院を解散する安倍総理の「ご意向」が固まったのだという。国家予算700億円を使い総選挙を行い、地震にかかる森友、加計疑惑をかわす「ご意向」なのだろうか。今回はさしずめ「もりかけ解散」だろうか。
数々の疑惑について「丁寧な説明をいたします」といった舌の根も乾かぬうち、野党に夜国会要求にも応じない憲法違反を続けながら、己が延命のため解散する「エゴイズム解散」、招待時に買収があったことが明らかな東京五輪まで総理でいたいというエゴもあるのだろうか。
低下した支持率の回復を狙って「仕事人内閣」と自画自賛したばかりなのに解散なのだから「仕事人仕事せぬ間解散」か。
北朝鮮がミサイルを連発させることで恐怖をあおり、自身の”軍拡路線”が正しいと訴える「ミサイル便乗解散」か。本当に危機だったら今そんなことをやっている場合ではない。それともJ アラートを鳴らすから大丈夫なのか。
安倍氏が選挙に強いように見えるのは、選挙期間中、与党にマイナスになりそうな情報を伝えさせようマスコミに、プレッシャーをかけるのがうまいからという要素もあるが、消費税増税を延期すると「新しい判断をいたしました」とうそぶける厚顔も功を奏しているかもしれない。しかしその手は使えそうにない。増税するがその分を教育や社会保障に充てるという印象戦法のようで、これがうまくいくのかどうか。そもそも、その分野への予算はアベノミクスで成長した分を使うと言っていたのは何だったのか。
民進党の支持率が低迷し山尾議員のオウンゴールスキャンダルもあって、「渡りに船解散」か。これでは何のために解散するかの大義名分がない。
民進党の前原代表が「共産党との選挙協力見直し」とかたくなに主張していることで、「ご意向」が固まったのかも知れない。安倍氏に「民進党が共産党とさえ組まなければ解散ありだな」と思わせるブラフで、ふたを開ければしっかり野党共闘路線で戦うという術を、例えば自由党の小沢氏から入れ知恵されたのでは、などと空想するのはSF思考が過ぎるか。
10月末の会計検査院の検査発表で何かが露呈する前の「逃亡解散」なのであるならばまるで犯罪心理学の分野の話になってくる。有田芳生議員の「わが逃走解散」が出色だ。
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◎この選挙の特質を、いろいろな「~解散」という言葉でよく示しています。
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この前の選挙での野党4党連合は一定の力を発揮しました。前原民進党代表は、共産党と共闘することを嫌っています。安倍もそれを解散の大きな要因の一つに思っています。しかし選挙ともなれば、やはり共産党の応援はかなりの威力を発揮するので、共産党は嫌いでも最後には応援が欲しいとなるかもしれません。それを見越して共産党もかなり柔軟に考えるようです。どうなるのでしょうか。憲法を変えさせないことが、最も重要に思われます。
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「風知草・山田氏―何を選ぶ?」 一部略
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米朝トップの開戦含みの毒舌合戦の谷間で日本は総選挙へ向かう。
アベノミクス、改憲、森友、加計問題を問うことになろうが、真の争点は、戦争寸前の歴史的危機を、的確に制御しうる政治家、指導者は誰か―の一点に尽きるのではないか。
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危機の指導者の条件は定見と強い意志である。憲政史の坂野潤治氏によれば、80年前の1937年末の近衛文麿首相に定見と強い意志さえあったなら、日中戦争の拡大は防げた。
坂野は最近出した本で内閣に最終決定権があったことを論証。「戦前の軍部の統帥権が内閣から独立していたので内閣が戦争を防げなかった―という話は全くの誤りです」
坂野は「9条を残し、自衛隊を明文で書き込む」という安倍改憲に首をひねっている。
坂野は言う。
「自衛隊を憲法に明記した場合、最高指揮官である首相の権限は、明治憲法の天皇大権に通じる独立性、万能性を帯びる。
なぜなら、自衛隊法に陸海空3自衛隊に対する首相の「最高指揮監督権」と、防衛出動(=開戦)命令権が書いてあるから。
今、自衛隊は憲法に根拠を持たない。首相に指揮権があるとはいえ、活動の限度をめぐり、裁判所が絶えず、チェックする。
自衛隊が憲法に明記されれば、裁判所の干渉の余地は狭まる。明治憲法では天皇が陸海軍に対しての権利を独占した。
安倍改憲が成れば、自衛隊最高指揮官としての首相の力は一層強まる。首相に人をえればよいが、それが適切か、疑問―。坂野はそう見ている。
坂野はここ数年の東アジアの緊迫と日本国内の安保論争を眺め、「帝国と立憲」を書いた。
「帝国と立憲」は安全保障と民主主義の対立の歴史である。その矛盾は2017年10月総選挙にも影を落としている。矛盾に立ち向かい、答えを出す政治家は誰か。重みにかける公約よりも人物を読む目が問われている。
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◎この観点は極めて重要なところである。憲法は変えないほうが良いという世論はまだ半数近くあり根強いが、何とか切り崩そうとする勢力のちからは強い。
前の都議選で小池新党は都議会でかなり勢力を伸ばしました。衆院選でも多くの候補者を立てるであろうが、小池氏やその周りの人物は右翼の日本会議支持勢力でありや改憲勢力である。多少自民党が減り、小池―希望の党が伸びようと、改憲勢力が伸びればよいと安倍氏の陣営は考えている。先日の都議選でも革新と思われた人もかなり小池新党に投票したと思われます。山田氏の言う通り、この選挙が日本の将来を決めるような重要な選挙になると思われます。長く守られた戦争をしない国の理念が今後も守られるか、こんなはずじゃなかった、と悔やむことにならないようにする意味でも重要な選挙だと思います。
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J-アラートほど、くだらない、矛盾に満ちたものはありません。ただ単に北朝鮮の脅威を騒ぎ立て、「やはり自衛隊強化、憲法改正は必要だ」と思わせる茶番です。北海道上空を通るのに長野まで範囲に入れるのでしょか。一方東京は入れません。安倍首相としてはもっと北朝鮮にやれと待ち望んでいるでしょう。選挙に勝ちますから。
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民進 事実上の解体その後のリベラル派の動き
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9月28日
毎日新聞朝刊の1面トップは、今日の解散を受けて、前原代表は今度の選挙は無所属で立候補し、民進党は事実上解体すると報じた。
「希望」党首となった小池氏は、「憲法改正」に「安全保障法関連法案」に反対な人は公認しないと言っています。枝野幸男氏らの「憲法改正反対のリベラル派」はどうするのでしょうか。リベラル派が分離し、共産党と共闘すれば、すっきりするのですが、どうなるのでしょうか。
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9月30日
「希望」では15人の民進党議員・候補者を排除するリストを作っているとか。(日刊ゲンダイ)菅直人や野田元首相、岡田克也氏、そしてリベラルの枝野幸男氏や赤松広隆、長妻昭氏、阿部知子氏、海江田万里氏などである。野田元首相などはリベラルでないものも小池氏より”偉い”人はいらないということでしょう。
彼らで新党を作れば、共産党。社民党と共闘し、すっきりとわかりやすい右翼政党に対抗するグループができることでしょう。
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10月2日
10月2日の毎日新聞トップは、「枝野氏ら新党結成へ―党名『民主党』検討」
新党には赤松、佐々木隆博、辻本清美、阿部氏らが参加する見通。参院からは4氏が検討している。野田氏や岡田氏は参加しない見通し。
午後5時、枝野幸男氏は記者会見を開き、新党「立憲民主党」を立ち上げると表明しました。
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コメント
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イチロウ様
コメントありがとうございます。
ドイツに比べると、日本の場合、破壊が中途半端であり戦犯として刑死したであろう人が戦後も支配層としてそのまま残ったとのお話ですが、その通りだと思います。
朝鮮戦争を境としてのアメリカの政策の変更も大きなものと思います。私たちの世代は戦中、戦後の厳しい時代を体験していますから戦争はまっぴらだとという強い気持ちがあります。
しかし安倍首相以後の世代では戦争もかまわないという気持ちが強いのかも知れません。アメリカと一緒になって北朝鮮の挑発に乗りいつの間にか戦争にまきこまれる可能性があります。
おっしゃるように、「今の路線の末に全土が焦土となり、悲惨な難民にならなければ,アベその他の似非政治家が目指す路線が何かわからないのでしょう」というお話は恐ろしくも悲しいことです。
危険なトランプ、金の対立に一緒になっていると、北朝鮮がやぶれかぶれに水爆を1発でも打ち込まれたら目も当てられませんが、北朝鮮が騒いでくれるのは大歓迎でしょう。憲法を変えやすいし防衛費を増額しやすいし、選挙に勝ちやすくなるでしょうから。
投稿: こういち | 2017年9月27日 (水) 09時17分
こういち 様
私は、先の大戦でこの国が敗戦した経過は、中途半端であった故に、今日の復古路線が敷かれた、と思っています。
第二次大戦では、膨大な人命の犠牲がありました。 この国も尊い人命を数えきれない程に失いました。
でも、ドイツと比べると、沖縄こそ焦土になりましたが、その他の日本本土は、全土が戦場として焦土にはならず、当時の支配層は、米ソ対立の狭間になって戦犯として絞首刑にもならず助命されました。
即ち、ドイツにあっては、戦犯として刑死したであろう戦犯が多くの場合には戦後も支配層として残った訳です。
これはちょうど、第一次大戦後のドイツと同じような状況である訳です。 即ち、先の大戦に対する根底からの反省が無いために、敗戦そのものにたいする復讐史観が残っている訳です。
と言うことは、第二次大戦で犠牲になったドイツの民衆のような状況を新たに経験しなければ、この国の民衆には、心底からの大戦に対する反省が望めない、と思われます。
何事も、実際に経験しなければ分からないのが、人間でしょう。 この国の人間には、今の路線の末に全土が焦土になり、悲惨な難民にならなければ、アベその他の似非政治家が目指す路線が何かが分からないのでしょう。
投稿: イチロウ | 2017年9月26日 (火) 22時10分