工作者の本のご紹介 『ルネサンスのエロスと魔術』 ルネサンス時代の魔術の位置づけ
『ルネサンスのエロスと魔術』
1984年にヨアン・ペテル・クリアーノにより、書かれました。、(1991年に桂 芳樹訳)
工作舎(この時は渋谷区松濤2-21-3発行)本体4800円 発行日 1991年11月30日
本書は500ページ
クリアーノは1950年、ルーマニア生まれ、大学卒業後イタリアに亡命。1975年シカゴ大学に
エリアーデに師事。
研究分野 オカルト・エロス・呪術・精神・歴史などについて
シカゴ大学教授 多方面で活躍。1991年シカゴ大学構内で何者かに暗殺されました。
本文 338ページ、捕遺 404ページ 注453ページ 解題 475ページ 参考文献、人名索引 500ページ
近代合理主義によつて葬られたに見える魔術。しかしフィッチ―ノ、ブルーノが活躍したルネサンス期は、魔術こそが現実を変え得るパワーを持っていた! 古代ギリシャ哲学、霊魂二原論、気息, ヘルメス思想、グノーシス主義、占星術などに脈打つ「想像的なるもの」をち密に検証し、ルネサンスの魔術的精神が、現代の心理学、広告宣伝など、マスコミの大衆操作にまで及んでいることを示唆し、古代から現代への壮大な精神潮流に光を当てる意欲作。(表紙カバーより)
1 章 想像力の歴史
ルネサンスの想像力の持つあらゆる方法の見本市の外観を呈するからである。
曰く、エロス、記憶術、理論的魔術、錬金術、実践魔術。p30
第2、3図 p79
第4図 「男根を屹立させた牧羊神」 p81
第6図 人間=小世界 ロバート フラッド 『両宇宙誌』
表紙の帯封から
魔術的精神の封印を解く ジョルダート・ブルーノの魔術の技法を現代の心理学の先駆であると認めたのは、正鵠を得ているというべきである。
ミルチェ・エリアーデの「序跋」より
この著作の斬新さと独創性の1つとしてジョルダーノ・ブルーノの『普遍の連鎖』をマキャベリの『君主論』に対比していることにも言及してみたい。フィチーノがエロスを魔術と同一視したとすれば、ジョルダーノ、ブルーノはエロス的魔術を徹底的に追及しているのである。あらゆるものは想像力によって操作しうる。すなわち想像力とは、人が何らかの主体、あるいは集合体に対し喚起しうるエロス的根源ならびにエロス的性質の幻想である。ただしこれには操作者が魔術の力を借りて、自分自身の幻想に対する免疫を持つことが必要である。本書の著者が『普遍の連鎖』に開陳された技法を現代の応用心理社会学の直接の先輩であると認めたのは、正鵠を得ているというべきであろう。(裏表紙のカバーより)
『ルネサンスのエロスと魔術』
序跋 ミルチャ・エリアーデ 1982年2月
序論
われわれ現代人の世界観、人間観とルネサンス人との間には深い断絶があるといまだに一般に信じられている。~
われわれ現代人が魔術について抱いている想念というものは、はなはだ奇妙である。われわれは魔術を単に、原始的、非科学的自然観から生じる愚劣な秘儀や方法の集積にすぎないとみなしがちである。~魔術は方法は異なるが、同じ目的を達成することを期するという現代の科学技術と共通点を持つのである。すなわち、遠隔通信、高速輸送,天体間旅行などは魔術師にとっては常識的な「出しもの」だったのである。~、今日の心理学、社会科学はすべて直接に魔術に由来するのである。
筆者がこれから論ずる魔術は想像的なるもの〈イマジネール)の学である。その発展の極に達したジョルダーノ・ブルーノの作品では、魔術は個人的・集団的性衝動への深い認識に基づいた個人・集団操作の方法であった。われわれはそこに心理分析の遥かなる始祖を見るだけでなく、まず何よりも応用心理社会学、大衆心理学の起源を見るのである。
第1部 想像の働き
第1章 想像力の歴史
内的感覚について
十二世紀に対する評価の変遷
霊魂の車駕と前世の体験
第2章 経験心理学とエロスの深層心理
フィッチ―ノの経験心理学とその源泉
記憶術
幻想的エロスと欲望の癒し
幻想の癒し
フィッチーノの深層心理学
霊魂の下降
憂鬱症とサティルヌス
1,フィッチ―ノの経験心理学とその源泉 より
フィッチ―ノの占星術と心理学の中心概念は
「たましい」である。
かれは『プラトン神学』で「霊魂は完全に純粋
なもので遠い存在である.
個体の地上的物体と「気息」と呼ばれる光粒子
によって結合される。
霊魂は自分と同類である.この輝ける気息体に
容易に侵入し、まずその中全体に伝播し、
次いでそれを仲介として全身に広がり、そして
肉体と生命と運動をもたらし、生気を与えるの
である。(p61)
第3章 危険な関係
ピコ・デッラ・ミランドラーフィッチ―ノの後継者
エロスの曖昧な神々
ジョルダーノ・ブルーノー幻想的過去を持つ男
◎魔術の発展のきわみは、ブルーノにある。
現代の応用社会心理学、大衆心理学の起源を
なすものを打ち立てた。
ロンドンにおける騒動
記憶術的な幻想
エロスの曖昧さ
ブルーノの教説の核心
アクタイオン
ディアナ
九人の盲人の寓話
妖女キルケ―
第2部 大いなる操作者
第4章 エロスと魔術
本質の一致
大衆と個人の操作
連鎖の要
精の射出と係留
普遍的社会心理学としての魔術
ブルーノのエロス的魔術は、正統的でないものの、
エロスと魔術の間の実体と操作における同一性が
どのような極端な結果にまで達するものであるかを、
われわれにつぶさに見せてくれる。
◎ フィッチ-ノは、愛(エロス)=魔術という公式
の父である。
この関係は容易に相互転換できる。
~愛とは確かに魔術師である。
魔術の力は全て愛に基づいている。すぐれた魔術師は、
精神分析家にして、預言者である。
魔術は想像的なるものの学である。
第5章 気息魔術
魔術の零度
魔術の「零度」はエロスである。エロスこそ、個体間の
規則的相互作用の法則によって機能する
性愛的魔術の構造-主体的魔術の1形式ーを生み
出すのである。
宗教もまた、預言者が個人の集団に対し施す集団催眠の
現象である。
主体魔術と対他魔術
事物の共謀
放射の理論
気息魔術
気息魔術の先駆者はフィッチ―ノである。『天空より導かれし生』1489 第5本質―宇宙の本質 神霊の媒介による操作
◎気息とは アリストテレスの書によるとされる。(偽書であるとされる。)代謝行動による、呼吸、脈動、食物同化などの働
をいう。
第6章 主体間魔術
主体内魔術
主体間魔術
第7章 神霊魔術
神霊学の若干の概念
神霊とエロス
魔女と悪魔付き
フィッチ―ノからジョルダーノ・ブルーノに至る神霊魔術 p247
現代の学者は、魔術は2種類しかないものと信じている。フィッチーノの拓いた「気息」魔術あるいは「自然魔術」、それと
トリテミウスの育てた「神霊魔術」である。もう一つは~デ・ラポルタの自然魔術であるが、これは猟奇的現象や民間療法
の集成であってまったく非「気息的」である。トリテミウスの魔術も惑星の霊の仲介によって行われるものであるが、これ
も気息的ではない点では同じである。
第3部 宴のあと
第8章 1484年
翅(つばさ)なき蠅
1484年は何故恐るべき年か?
第9章 想像に対する検閲
想像的なるものの廃棄
歴史の逆説
「ロバ」論争
ジョルダーノ・ブルーノの術策
宗教改革の一元性
世界像の修正
第10章 ファウスト博士
ルネサンスの寛容さ
地獄はもっと暑いだろう
〈 )滅的な道徳主義
最終的結末
4、最終的結末 P336-338
現代の西洋文明は全て宗教改革の産物である。それは宗教的内容を失いながら、依然としてその因習と祭儀は持続しているのである。 理論的次元では、想像的なものに対する隅々まで浸透する検閲は、現代の精密化学と技術の出現を呼び起こした。実践的次元では現代の各種の体制を現出させた。心理的次元では、現代のあらゆる慢性的神経症を招いた。これは、宗教改革文化の徹底的な一面的な思考と「想像的なもの」の原理的拒否の結果である。
~ 西欧文明が、宗教改革とそれに続く一連の政治的事件が切り拓いた路線をたどっているという事実の明らかな証拠なのである。現代の西欧は、ニーチェが予見したように―宗教改革の必然的結果という性格を帯びつつあるのである。しかしながらそれはまた、16,17世紀において決定的に発展方向が固定されたものの最終的結末ではないのだろうか?
~あたらしいルネサンス、世界の再生がわれわれ現代社会のあらゆる神経症、あらゆる葛藤、われわれのあいだに存在するあらゆる差別を克服するであろうというような楽天的に過ぎる希望をあからさまにする表明することはあえてしない。このようなルネサンスが生ま出るためには、ふたたび人間の想像力に深甚な変化をもたらし、他の方策、他の目標を示す形で、新しい宗教改革が起こらねばならない。唯一の問題は、そのような価値転換を見た暁に、それが人々に恵みと幸福のしるしをもたらすか否かということである。
究極的に重要なことは、そのような突然変異が望ましいものである限り、新しい「翅なき蠅」が生命を損なわれることなくはい出ることができるような環境をこのような変化が提供することである。 -本文おわり)
捕遺 339
注 405
・
人名索引 500
補遺7 p375 妖術の実態
参考
◎著名なルネサンス期の哲学者や魔術師
マルシリオ・フィッチ―ノ 1433-1499
参考書 「ルネッサンスの魔術思想」フィチィーノからカンパネッラヘ 1993年
ルネッサンス初期の代表的な魔術師 メディチ家コジモとの関係が深い
気息魔術 ヘルメス文書を解読する
ヨハンネス・トリテミウス 1462年―1516年
ドイツの修道院 神霊魔術 魔女の妖術は非難するが、自分も降霊術を行う。陰秘学に影響
「ステカノグラフィア」1606年出版 暗号法について
デ・ラ・ポルタ 1535-1615年
ナポリ生まれの自然哲学者 「人間の人相について 全6巻」
参考書 「自然魔術 人体編」青土社 自然魔術
ジョルダーノ・ブルーノ 1548-1600
イタリアの哲学者にして修道士 最高の魔術研究者
コペルニクスの地動説を擁護し。汎神論
1600年火刑に処せられる。1603年禁書目録にのる。
20世紀に取り消しになるまで。
参考書 『 J,ブルーノとヘルメス教の伝統』 フィンセス イエイツ
工作舎 10000円
トマソ・カンパネッラ 1568-1639
聖職者にして哲学者 太陽の都
◎ルネッサンスとは約300年間
1300 頃から ダンテの『神曲』
1480頃から メディチ家の支配
1486年 『魔女の槌』魔女裁判
1500年ころラファエロ、ダヴィンチ、ミケランジェロ、
1530年 コペルニクスの地動説
1564-1642 ガリレオ
◎参考書 (佐竹の蔵書のみ)
魔術の書(A History of Magic)
2021年6月25日 編者 DK社 3800円 グラフィック社
"A Pictprial History of Magic and the supernatural"
1961 1964 1972 Spring Books
魔法事典 山北 篤監修 1998年9月19日
新紀元社 2500円
自然魔術 人体編 G,デッラ ポルタ 1996年3月
青土社 2400円
オカルトの事典 フレッド・ゲティングス 1993年3月25日
青土社 3200円
魔術の歴史 J、B、ラッセル 1987年8月28日
筑摩書房 2400円
悪魔の辞典 ビアス 西川正身編訳 1983年5月16日
岩波書店 1500円
悪魔学入門 J,チャールズ・ウオール 松本晴子訳 1986年5月10日
北宋社 1300円
怪物 吉田敦彦他4名 1991年1月16日
河出書房新社 2800円
悪魔の事典 フレッド・ゲティングス 大瀧啓裕訳
青土社 3200円
« 工作舎の本のご紹介2 『巡礼としての絵画』メディチ宮のマギ礼拝堂とゴッツォリの語りの技法 | トップページ | 100歳以上の長寿者、最多9,2万人、53年連続増女性9割。妻のお母さんも今年99歳。2024年死去しました。 »
「占いと神秘主義批判」カテゴリの記事
- [これ以上ひどいおみくじある?」という記事について おみくじについて人間学の例会で話をしました。(2024.01.06)
- 工作者の本のご紹介 『ルネサンスのエロスと魔術』 ルネサンス時代の魔術の位置づけ(2023.09.11)
- 「疑似科学」踊らされないで 石川幹人氏 2023年7月の毎日新聞の記事に(2023.07.16)
- 少年時代にみた、火の玉の推測 唯一の経験でした 最近 はっと気が付きました ロッテの工場の高電圧のせいかも(2022.05.06)
- 超常現象を科学的に研究する、ジャパンスケプティクスを退会しました(2018.03.28)
« 工作舎の本のご紹介2 『巡礼としての絵画』メディチ宮のマギ礼拝堂とゴッツォリの語りの技法 | トップページ | 100歳以上の長寿者、最多9,2万人、53年連続増女性9割。妻のお母さんも今年99歳。2024年死去しました。 »
コメント