脱法ハーブの現状と課題 第98回新教育人間学部会 西田隆男氏のお話し
はじめに
2013年10月25日(金)に開催された、人間学研究所、第98回新教育人間学部会のテーマは、西田隆男氏による、「脱法ハーブの現状と課題ー予防教育による効果的な防止」というお話でした。西田隆男氏は、人間学研究所の研究員で、臨床心理士、自由の森学園の学校カウンセラー、埼玉ダルク理事長、帝京大学の講師などをしておられます。
西田隆男氏にはすでに、2011年3月25日の第72回新教育人間学部会で、「世界のアルコール問題 ヘルスプロモーション」というお話しをしていただき、2010年5月にも「日本の薬物問題、恐るべき海外での実態」というお話しをしていただきました。この内容は、「こういちの人間学ブログ」のブログでも紹介いたしました。(2010年5月23日付)
http://koiti-ninngen.cocolog-nifty.com/koitiblog/2010/05/post-5d8b..html
(すみません、これはうまくジャンプしないようです)
「こういちの人間学ブログ」を開いて頂きそれぞれの月のバックナンバーでご覧ください。
また『人間学研究所年誌』にも、毎号執筆していただいています。ちなみに「人間学研究所年誌2012 第10号」(2013年3月31日発行)は「脱法ドラッグの現状と対策」という内容で書いておられます。当日配布された6ページの資料に基づいてお話しいただきました。極めて重要な問題なので、その要旨をお伝えいたします。
NHKの番組を見る
最初の15分ほどは、NHKで2012年6月25日に放送された、「クローズアップ現代」での「危険性増す脱法ハーブ」という番組を記録したDVDを見ました。最近この脱法ハーブを使ったものが自動車を運転して死傷事故を起こすということが起きている。脱法ハーブは簡単に作れ、お香などとして売られているので、簡単に手に入る。また取り締まられても化学式の一部を変えれば、すぐ新しものが作られ法の網を潜り抜けるなどの問題を提起していました。
1、脱法ハーブとは
定義:麻薬や覚せい剤に化学構造を似せて、作られた物質を乾燥植物に添加したもの。
ー多幸感や快感を高めるものとして、販売されている。名称、お香、アロマ、バスソルト、ガラスクリーナーなど。簡単に作れるのが特徴。
2、種類とどのように販売されているのか
インターネット販売が90% ほかにハーブ専門店、アダルトショップ、雑貨店 路上自販機(最初に見つかったのが岐阜県)など
★ 実際にインターネットで、「合法ドラッグ」として検索してみると、様々なものが通販で販売されています。現在の麻薬よりも強烈なものが簡単に手に入るところが恐ろしいです。一方、ドラッグ経験者の「脱法ドラッグなんてやめとけ、おれ失明しかけてこともある」など危険性についての、書き込みもたくさんあります。
ドラッグの標準タイプ
①アッパー系: 覚せい剤、コカイン(アジアや日本主力)
ーこれは、日本で戦後ヒロポンの名で薬局で販売した
②ダウナー系: アヘン、ヘロイン(鎮痛系)ヨーロッパ
③幻覚系 : 大麻、MDMA
ハーブも同じような分類でネットを中心に流布
脱法と違法ドラッグの違い 幹となるところが同じで、少しだけ構造を変えたものが「脱法」となる=心身への影響は、麻薬と同じかそれ以上
末端の一部だけをかえれば次々にいろいろなものができてしまう。ヨーロッパを中心に新しいものを研究し作っている研究者がいる。
ハーブの値段 ネットおよび店頭 (昨年の価格)
1パック3000円から6000円 ばら売り 1グラム500円
ハーブの使用者のタイプ 大麻や覚せい剤から移行するものと、最近はハーブだけのものが増加 年齢・学歴・職業に関係なく多様化
お香とかバスソルトとか、普通に使っている場合は麻薬の硬貨はでない。吸引してはいけないことになっているが、吸引すると麻薬の効果が出てくる。
最近の購入者の傾向、特徴 「ちょいワル(グレ)」の傾向へ
3.危険性:脳、中枢神経への被害
幻覚、妄想、意識障害、嘔吐、手足の痙攣、錯乱、他人への危害、死亡 何が起きるか誰も予測できない
*従来の麻薬販売では、これこれの使い方で使うようにとと売り手による説明と指導があるが、脱法ドラッグの場合はそれがない。普通、従来の麻薬では5から10年で依存症の症状が出たのだが、脱法ハーブでは、覚せい剤系で、数倍から10倍の効果、大麻系で20~30倍の効果があり、 危険性依存性が増大するので、わずか1年で中毒を起こすこともある。従来の麻薬より危険性があるにもかかわらず、依然としてインターネットなどで簡単に手に入ることが大きな問題なのである。
緊急搬送のベスト3
1、気分がわるくなる 29件 2、精神錯乱 25件 3、意識朦朧 16件
(大阪府警察本部 2012年調査)
搬送されないケースはどのくらいあるのか?
4、ハーブによる事件・事故
乗用車の暴走で2人けが、女子高生をはねて死亡、小学校に乱入怪我、20代女性が吸入で死亡、路上で女性を刺殺逮捕などなど多発
★ 最近、脱法ドラッグが売れているのは、世田谷成城、等々力、高井戸(男が多い)や田園調布(お嬢様が多い)石神井(奥様が多い)、と国立などの高級住宅街で、比較的収入の多いところで売れている傾向がある。
5、脱法ドラッグの社会的経緯
1998年「合法、脱法ドラッグ」として販売
2007年、31物質を指定薬物に
2012年全国的に普及、自販機が発見
2013年3月包括指定を772物質に
取り締まってもどんどん増えるイタチごっこ
指定薬物は製造輸入販売は規制。所持は規制なし
ー逮捕されないから大丈夫、ハーブだから安心と宣伝
政府による包括規制の効果
脱法ハーブの販売店、包括規制後に94店が減少したがまだ約200店残る(実態はもっと多い)
今までは薬事法では所持使用の規制がない。今度は10代が脱法ハーブを持っていると補導に(たばこと同じ扱い)
6、中高生の意識調査
首都圏の中高生 2012調査 6150人
脱法ハーブなどを使うかという問いに対し
使うかどうかは個人の判断と13,2%(32人が使用0,6%)
中学生の意識調査 全国5万4486人
脱法15,6%ドラッグ、入手可能と 使用経験あり120人
今の中学生は正直だがーだまされやすい
意識調査 所持も使用もダメ 75,4% 使用は悪いが所持は悪くない7,1%、使用しても法律に反しなければよい 5,7%
7、世界の状況
NPS 国際条約で規制対象(234)以外の新規薬物 現在250以上あり
脱法ドラッグの乱用状況 2011年15から24歳
アイルランド16,3%ポーランド9%ラトビア8,8%英国8,2%
北米アメリカ・カナダでは 2012年 全158種作られる
合成ガンビノイド 大麻系 合成カチノン覚せい剤系 フェネチルアミン(抗うつ剤PEA)
ヨーロッパでの販売
インターネットでー88%有人経路も多い
世界の薬物、生涯経験率
国 大麻 覚せい剤 MDMA
アメリカ 41% 5% 5% フランス 30% 1,4% 2% 日本 1,4% 0,3% 0,2%
大麻はアメリカで21州以上で、カナダは全州医療用として合法化
大麻(マリファナ)使用者の状況
世界の大麻使用者 1,25億~2,03億人 欧州では23%
オーストラリア、カナダでは50% 留学生が経験すること多
アメリカで大麻使用率高校3年約(2012年 )50%
向精神薬、鎮痛剤で使用 過料服薬の死者14800人
8、脱法ハーブ使用者の特徴 ーダルクの相談から
:ダルクとは、民間の麻薬からの更生を推進する施設
従来はやくざとか高校中退者などが多数であったが
1、高学歴 2、自閉症スペクトラムの傾向 3、家族会の相談で大多数を占める
ー違法ドラッグなら使用しない層への拡大
9、薬物乱用の心理学的背景
「生きていても、何もいいことはない」「人生に希望なんて持てない」
生きづらさーサバイバルー酔いー理性の遮断ー感情の荒波、妄想状態
リスキーな行動ー病気、けがー自由の喪失、不幸ー死
10代の死亡 一位 事故 二位 自殺
10、薬物が引き起こす問題と薬物乱用
1、家族の問題 家庭内暴力、家族崩壊 2、対人関係トラブル、孤立 3、社会生活の問題 退学、失業、借金 4、社会全体の問題 事故、犯罪、治安悪化
OD(過剰服薬)
向精神薬、睡眠剤、鎮痛剤、こう不安剤、抗うつ剤、精神安定剤などの大量服用
国立精神神経センター 依存性原因薬物で2008年13%
武蔵野日赤病院 処方薬による緊急搬送 2012年180件
予防はどうしたらよいか
11、心理教育的予防
自己のポジティブな感情を高める 自尊感情、自己効力感、レジリエンス。セルフコンパッション
自己効力感の高め方ー予防回復に役立つこと
1、成功体験
2、他社の行動から学ぶ:モデルとなる人物
3、助言、説得;代理体験
4、気づき:自分の行為へのフィードバック
抑止となるのは薬をやめたいと 気づき
レジリエンス(心の回復力)ピラミッド型になっている
1、乳幼児期の基本的信頼関係
2、児童期の自己効力感(やればできるということ)
3、思春期の心理的離乳
4、成人期の自立
:この1から4がかけている人が薬物依存になりやすい
★ 西田氏が理事長をしておられる埼玉ダルクでは施設長は麻薬からの回復者である。そうでなければうまくいかない。西田氏のお話では、入所者のうち20%ほどが麻薬などの経験者である川越少年刑務所などに、薬物依存から抜け出すという話をするとき、普通の人が話すと受刑者は馬鹿にして、聞こうとしないそうです。ところが自分が薬物依存だった人がダルクでの経験により、それから抜け出した体験談を話す時には真剣に聞くそうです。
今までは、ダルクに来る人、思春期に麻薬を始めた人が多く、2,30代から始めたという人は少なかったが、脱法ハーブなどにより、40代の重役の人など最近は大人になって始めた人が多い。
ダルクでは更生プログラムに基づいて、3週間から数カ月で、麻薬からぬけ出していくようにする。精神安定剤や坑うつ剤などの薬物と、認知行動療法などを組み合わせてやっていく。しかしそういう取り組みをしているところは全国でも10くらいしかない。全国的に見て、医師とも結合してきちんとしたした、取り組みをしているところは、東京、埼玉、神奈川くらいしかなく、大阪や京都にはない。
12、まとめ
*シンプルで効果的な防止法
1、予防教育 :危険性、有害性の啓発
2、心理教育 :ポジティブな感情の育成
アジアでは絶対ダメという考え方が浸透、中国では死刑。しかし欧米では甘い
参考 ダルクとは
ドラッグ D アディクション(病的依存)A リハビリテーションR センターC
からとった名前で、薬物からの解放プログラムを持つ民間の薬物依存症リハビリ施設です。全国に施設があります。スタッフは、薬物から解放された人々がなります。
参考書
『リカバリー・ウイズダム 回復の智恵』 埼玉ダルク支援センター 500円
『JUST FOR TODAY 3 今日一日薬物依存からの回復』
東京ダルク出版編集委員会 西田隆男 500円
『アディクションカウンセラ-養成講座』
東京ダルク支援センター 西田隆男 1000円
申しこみは 03-3807-9978
埼玉ダルク機関紙 「スピリチュアル・ハーモニー」
内容がホームページで見られます。
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